免疫療法におけるHyperprogressive disease、pseudo-progressionとの鑑別が難しい例も

Hyperprogressive Disease in Patients With Advanced Non-Small Cell Lung Cancer Treated With PD-1/PD-L1 Inhibitors or With Single-Agent Chemotherapy.

Ferrara R et al.
JAMA Oncol. 2018 Sep 6. [Epub ahead of print]
PMID: 30193240

Abs of abs.
Hyperprogressive disease(HPD)はPD-1およびPD-L1阻害薬で治療した際に認められる新たな進行パターンである。非小細胞肺癌におけるHPDの割合や転帰は明らかではない。HPDが観察されるかどうかを調べるために、PD-1/PD-L1阻害薬治療と単剤化学療法を比較し関連を考察した。2011年から2017年までの間に治療された患者が対象となった。これらはフランスの多施設の後ろ向き研究として、PD-1/PD-L1阻害剤(8施設)または単剤化学療法(4施設)で治療されている。治療前に少なくとも2回のCT、および治療中の1回のCTが撮像されており、RECIST評価で測定可能な病変が必要であった。治療前および治療中の腫瘍増殖率(TGR)および月毎の変動(デルタTGR)を計算した。HPDは、最初の評価で50%を超えるデルタTGRを有するともの定義された。プライマリーエンドポイントは、IOまたは化学療法で治療された患者におけるHPD率である。406人がPD-1/PD-L1の阻害剤(男性63.8%)で治療され、46.3%(N=188)が65歳以上、72.4%(N=294)が非扁平上皮癌であり、92.9%(N = 377)は、2次治療以降で単独療法としてPD-1阻害剤を投与されていた。追跡期間中央値は12.1ヵ月[10.1-13.8]であり、全生存期間中央値は13.4ヵ月[10.2-17.0]であった。56人(13.8%)がHPDと分類された。pseudo-progressionは4.7%(n=19)観察された。HPDは非HPDと比較して、投与前に2カ所以上の転移を有することと有意に関連していた(62.5% vs. 42.6%; P=0.006)。PD-1/PD-L1阻害薬治療直後の6週間以内にHPDになった場合、PDと比較しても有意に全生存期間が短かった(3.4ヶ月[2.8-7.5] vs, 6.2ヶ月[5.3-7.9]、ハザード比2.18 [1.29-3.69]、P=0.003)。一方化学療法を受けた患者59人のうち3人(5.1%)にHPDが見られた。今回の研究からHPDは、既治療例において化学療法と比較して、PD-1/PD-L1阻害薬でより多く見られることが知られた。またこれらは同じPD-1/PD-L1治療薬でも転移部位の多さと予後不良であることも示された。HPDに関与する分子メカニズムの解明には、さらなる研究が必要である。

感想
腫瘍の増殖率とは、一方向の場合に長径を円形の直径とみなし、体積を求め、その増加率を指します。Ferteらによれば、指数関数的な増殖を前提とすると、ある時点での体積Vtは「Vt = V0 exp(TG.t)」と表現され、増加は「3log(Dt/D0)/t」、一か月あたりの腫瘍増殖率は「TGR=100 (exp(TG) −1)」と表されます[Ferté C ClinCancerRes2014 PMID:24240109]。要は測定間隔と体積差がわかれば、一か月あたりの増殖率がわかるので、この増殖スピードが5割増し以上になったものを今回の「HPD」の定義としています。一見簡単なように見えますが、測定は意外に困難です。実際に測定を試みたことがありますが、PDとなった際のCTでは感染が被ったり、胸水で病変がわからなくなるケースが多いと感じました。今回は30.5%が測定不能でした。免疫療法を行った群では、治療前の18.5%のTGRが0以下、つまりメインの病変は動かずに、新規病変でPDとなって免疫療法が導入されたことになります。特に進行の早い人が多く解析に組み込まれたわけではなさそうです。免疫療法導入後との比較では、増殖スピードが増したものが34.5%、HPDは全体の15.3%に見られました。
興味深いのは6人のpseudo-progressionが、当初はHPDと分類されたことにあります(最終的にはHPDから除外されています)。今回の研究はIASLCで発表されて以降、著名な先生方が何回も講演で言及されています。この”hyper pseudo-progression?”の症例が存在することは、かなり重要事項かと思うのですが、だれも言及されません。治療後のCTの評価タイミングにも、かなり左右されることですが、全体の撮像タイミングの情報がありません。実臨床ですので仕方のないところでしょう。
Fig2に治療前増殖速度(1カ月あたり)を横軸に、縦軸に治療後の増殖速度を取った散布図があります。面白いのはベースラインで増殖速度の早いもの(グラフでより右側にあるもの)は治療の不成功により、さらに早く大きくなっていそうですが、実際はそうは見えていない点です。詳しく見ると、HPDになっているものは、ベースラインの増殖速度が1か月あたり0-100%(これも十分早いですが)に多く200%以上にむしろ少なく見えています。これには十分注意が必要で、増殖速度が速すぎて評価不能となっている症例が大幅に欠落していることが考えられます(参加施設の一つでは30.5%(76/249)もの症例が急速進行によりTGR評価できずに除外されています。そのような症例の治療前TGRがどうであったか知りたいところです)。よく2次治療選択の際に、腫瘍増殖が速そうなものはドセタキセル+ラムシルマブを主体とした抗がん剤で、待てそうなものは免疫療法でと語られます。しかし今回の結果をそのまま受け取ると、その考え方もまだまだ暫定的と言えます。つまり進行の早い症例でも免疫療法の効果予測がより正確にできれば、免疫療法を考えていくことになります。また今回HPDの背景因子を探っていますが、転移部位が2か所より多い(3か所以上)ということ以外、PD-L1もPSもNLRやLDHでも差が見られませんでした。結局HPDは予測不能で、転移臓器が多いものを避ける以外、現実的に打てる手がないということになります。
今回のIASLCでも多くの興味深い演題が多く発表されました。複数の演題がNEJMに同時発表されるということは、この分野の進歩と競争の激しさを示しています。今後、免疫療法+抗がん剤の併用療法が広がっていくことは間違いないでしょう。そのHPDがどうなのかなど興味は尽きません。