術後補助化学療法、6ヶ月以内の死亡も無視できない

Early Mortality in Patients Undergoing Adjuvant Chemotherapy for Non-Small Cell Lung Cancer.

Morgensztern D et al.
J Thorac Oncol. 2018 Feb 2. [Epub ahead of print]
PMID: 29410127

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術後補助化学療法は、完全切除された非小細胞肺癌の生存率を改善する。しかし潜在的に無効または致死的有害事象と関連する。この術後補助化学療法を受けている患者の早期死亡に関する情報は限られている。このため化学療法開始の最初の6ヶ月以内の死亡率についてデータベースを使用し調査した。データベースにおいて、2004年から2012年の間にIB期からIIIA期の非小細胞肺癌と診断された18歳以上の患者を検索した。さらに外科的に完全切除され120日以内に多剤補助化学療法を開始されたものを対象とした。年齢は、50歳未満、51-60歳、61-70歳、71-80歳、80歳以上の群に分類した。19691例の患者が適格基準を満たし、19398人について6ヶ月後の状態知ることができた。今回の集団の年齢中央値は65歳[19-89]であった。化学療法の開始からの1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月および6ヶ月の累積死亡率は、それぞれ0.7%、1.3%、1.9%、2.6%、3.2%および4.1%であった。年齢別の6ヶ月死亡率は50歳以下、51-60歳、61-70歳、71-80歳、および80歳超で、それぞれ2.6%、3.1%、4.1%、5.3%および7.6%であった(p<0.001)。6ヶ月死亡率の上昇に関連する独立した因子として、50歳未満を対照とした場合71-80歳(OR=1.72[1.16-2.55]、p=0.007)、80歳超 (OR=1.42[1.21-1.67]、p<0.001、Charlson-Deyo合併症スコア2対0(OR=1.52、[1.22-1.89]、P<0.001)。さらに肺全摘(OR=1.38[1.11-1.73]、P=0.004)。術後6日以上の入院(OR=1.21[1.03-1.41]、P=0.02)、術後30日以内の再入院(OR=1.48[1.15-1.90]、P=0.02)が挙げられた。結論として非小細胞肺癌の完全切除後の補助化学療法の使用による早期死亡は重要な臨床課題であり、70歳以上の患者で、合併症スコアが高く、術後の滞在期間が長いものは高リスクである。

感想
アメリカのデータでフォローアップ中央期間は38.3ヶ月です。全体の6ヶ月死亡率は4.1%で、12ヶ月死亡率は10.2%です。なかでも80歳超では16.1%でした。これまで80歳超の数は少なく信頼区間が幅広いことが多い印象でしたが、今回の研究では実数として392人が入っており十分なサンプルサイズが確保されています。術後補助化学療法による生存率の向上はエビデンスとして確立しているとは言え、本来再発してこない運命にあるかもしれないのに、補助化学療法で命を落とすことは何としても避けたいところです。今回の死亡がすべて化学療法によるものではないでしょうが、高齢、合併症が多い場合は慎重にすべきことは言うまでもありません。また今回は化学療法レジメンについて様々であり記載がありません。
日本の肺癌学会ガイドラインを見てみます。シスプラチン+ビノレルビンの成績の記載はありますが「完全切除例に対してシスプラチン併用化学療法を行うよう推奨する(1A)」とあるだけで、シスプラチン+ビノレルビンの指定があるわけではありません。というのも私の施設ではシスプラチン+ビノレルビンを術後補助化学療法にしてもうまくいかない人が多く、特に腎機能障害が多い印象があります。ガイドラインの記述ではカルボプラチンベースでも良いのかもしれませんが、生存率向上が2割程度なのにそこまでするかどうかは悩ましいところです。将来的には免疫療法も術後補助化学療法に入ってくるでしょうが、無リスクの薬がない以上いつまでも合併症の問題がついて回ります。