EGFR遺伝子変異耐性化、病勢進行の仕方により遺伝子変異の出現が異なる?

Three new disease-progression modes in NSCLC patients after EGFR-TKI treatment by next-generation sequencing analysis

Wei Y et al.
Lung Cancer. 2018 Nov;125:43-50.
PMED

Abs of abs.
非小細胞肺癌(NSCLC)患者では、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)に対し一旦良好なレスポンスをしたとしても最終的には病勢進行を示す。今回は、次世代シークエンサ―(NGS)を使用して、EGFR-TKI治療後のNSCLC患者を3つの新しい疾患進行形式に分類し調査することを目的とした。EGFR-TKIに対する耐性を獲得し、組織がNGSに提供されたEGFR遺伝子変異を有する患者を登録した。3つの疾患進行形式に従って臨床背景、無増悪生存期間(PFS)、ゲノム変化およびEGFR遺伝子変異の発現を後ろ向きに分析した。病勢進行は以下の通りであった。原発増大が19.5%(8/41)(モード1)、転移巣増大が31.7%(13/41)(モード2)、原発巣および転移巣の両方増大が48.8%(20/41)(モード3)。モード1におけるPFSの中央値は6ヶ月[1-6]であり、モード2では11ヶ月[8-14]、モード3で10ヶ月[3-16]と有意にモード1が短かった(p=0.0084)。Del19の発現は、3つのモード間で有意に異なっていた(p=0.02)。モード3におけるmutantの数および種類は、モード1および2におけるそれより明らかに多かったが、モード2では遺伝子増幅が観察されなかった.TP53遺伝子の突然変異は、今回の研究において見出された頻度の高い遺伝子変異であり、すべて変化のうち48.8%(20/41)を占めていた。モード2およびモード3と比較してモード1におけるTP53変異は、主にエクソン6および8であり、すべての変異はエクソン4-8に位置していた。PFSの優位性は、転移巣のみ増大または原発転移巣両方が増大する方にあったが、これは今後の治療戦略を検討していくうえで注目すべき点である。

感想
EGFR-TKIで治療した後の病勢進行はいくつかのパターンがあるように見えます。特に脳病変ばかり悪くなって来るタイプや、骨病変ばかり悪くなってくるタイプがあります。今回の研究はそれら臨床的振る舞いの違いと、TKIによる病勢進行後にEGFRを含めた多数の遺伝子変異を測定し関連付けようとする王道の研究です。検体は末梢血、胸水、生検とありますが、92.7%は末梢血でありリキッドの結果と見るのが妥当です。対象は41人で14人がDel19、23人がL858Rで、あとはL858R+S768I、T790M+Del19、T790M+L858Rでした。NGSの結果はFig1にまとめられています。見つかったmutationはEGFR、TP53以外ではAPC(7.3%)、TET2(7.3%)、DNMT3A(7.3%)、ARID1A(4.9%)、CTNNB1(4.5%)で遺伝⼦増幅は、EGFR(24.4%)、KRAS(9.8%)、MET、ERBB2、FGF19、CCND1、CCNE1およびCDK4でした。またEML4-ALK(4.9%、2/41)およびCEBPZ-ALK(2.4%、1/41)融合遺伝⼦も検出されています。これまで一度ALK陰性なら、再測定することは少なかった項目ですが、再生検の項目に含めた方がよいかもしれません。今回の最も重要な知見は、「モード3(原発転移両方増大)におけるmutantの数および種類は、モード1および2におけるそれより明らかに多かった」ことであり、著者らはこのモード3に対してTKIを継続投与することなく抗がん剤治療に切り替えることを提案しています。もちろんT790Mを初めとする治療薬のある遺伝子変異がない場合のことです。
遺伝子変異に対する薬が徐々に出てきますが、この臨床経過による治療選択もひきつづき追求していくテーマと考えています。今回のような検討が増えることによって、実地では測れない遺伝子変異を想像しながら少しでも効率の良い遺伝子検査、そして治療選択を考えていくことが臨床医に求められます。