免疫チェックポイント阻害薬の効果は男女差がある

Cancer immunotherapy efficacy and patients’ sex: a systematic review and meta-analysis.

Conforti F et al.
Lancet Oncol. 2018 Jun;19(6):737-746.
PMID: 29778737

Abs of abs.
免疫応答における性差が認められている。しかしがん治療における免疫チェックポイント阻害剤の有効性に性差が見られるかどうかはよくわかっていない。私たちは、男女間に免疫チェックポイント阻害薬の有効性に異質性があるかどうかを評価するためメタ解析を行った。性別のハザード比(HRs)が得られる免疫チェックポイント阻害剤(PD-1、CTLA-4、併用含む)のランダム化比較試験を収集した。使用したのはPubMed、MEDLINE、EmbaseおよびScopusのデータベースであり、2017年11月末までの試験を系統的に検索した。また、主要学会抄録や発表内容も含めて見直し、非ランダム化試験を除外し、英語で発表された論文のみを検討した。プライマリーエンドポイントは、男性と女性の生存期間の対数ハザード比の差であり、男女間の免疫チェックポイント阻害剤の効力の差を評価することであった。全生存期間のハザード比をプールしランダム効果モデルを用いて、ハザード比および95%信頼区間を計算した。また交互作用を検定し推定値と異質性についても評価した。同定された7133の研究のうち、性別に生存期間を報告した免疫チェックポイント阻害剤(イピリムマブ、トレメリムマブ、ニボルマブ、ペンブロリズマブ)の無作為化比較試験は20件あった。進行癌または転移性癌が主体であり全体として11351人、男性7646人(67%)、女性3705人(33%)が分析された。多いのは悪性黒色腫3632人(32%)および非小細胞肺癌3482人(31%)であった。プール化された全生存期間のハザード比は、男性患者において、免疫療法群対コントロール群で0.72[0.65-0.79]であり、女性のそれは0.86[0.79-0.93]であった。免疫チェックポイント阻害薬治療における男女間での効果差は有意(P=0.0019)であった。本検討から、免疫チェックポイント阻害剤は、悪性黒色腫および非小細胞肺癌などの進行癌を有する患者の全生存期間を改善することができることが知られた。しかし利益の大きさは性別に依存する。今後の研究では、臨床試験により多くの女性を含めるようにし、女性の免疫療法の有効性を改善することに焦点を当てる必要がある。おそらく男性と女性では異なる免疫療法を探索するべきであろう。

感想
自己免疫疾患が女性に圧倒的に多いように、免疫反応において性差が存在することは明らかです。非小細胞肺癌における性差というと、まずEGFR遺伝子変異陽性例の頻度の違いが挙げられます。このようなドライバー変異は免疫チェックポイント阻害薬の負の効果予測因子であり、いくら免疫治療に性差があるといっても背景因子の差と思っていました。しかしこの論文はそうでないかもしれないと思わせてくれる良い論文です。
導入部分では、自己免疫疾患だけでなくワクチン療法も女性に有用性が高いこと、またPD-1/L1経路における性ホルモンの調節から女性の方が免疫反応が強いことを紹介しています。したがって女性が発癌するためには、これらの厳重な免疫監視機構を強力に逃れることが必要となるわけです。つまり免疫学的に鍛え上げられた癌しか発癌できないという背景が存在します。ただ喫煙、日焼け止めの使用などの男女間の生活行動の差も、発癌因子としての背景の差となり無視できないことにも触れてられています。メタアナリシスの結果はシンプルで、免疫チェックポイント阻害薬は男性>女性の効果であるというものです。特にPD-1阻害薬だけに関して言えば、プール解析で女性の対コントロールでのハザード比が0.82[0.73-0.92]、男性が0.67[0.61-0.74]と明らかに性差がありました。今回のメタアナリシスに含まれ、かつ言及されていますが、PD-L1≧50%を対象としたKEYNOTE024試験[Reck M NEJM2016 PMID:27718847]でも性差は確認されています。この試験では男性ハザード比0.39[0.26-0.58]、女性0.75[0.46-1.21]となっており、EGFR遺伝子変異およびALK融合遺伝子変異の無いものが登録基準になっていますので、性差の存在の信ぴょう性は高まると思います。また最近発表されたアテゾリズマブ+抗がん剤の初回治療の試験[Socinski MA NEJM2018 PMID:29863955]でも、補遺にサブグループ解析が載っています。それによるとPFSに対する男性ハザード比0.55、女性ハザード比0.73であり性差の傾向は確認できます。また免疫チェックポイント阻害薬の効果予測因子として期待されているmutation burden(MB)を取り上げたものでは、最近出た高MBに対するニボルマブ+イピリムマブ対抗がん剤の比較試験[Hellmann MD NEJM2018 PMID:29658845]があります。この試験でも、男性ハザード比0.52[0.36-0.74]、女性ハザード比0.70[0.41-1.20]と性差の傾向が確認できます。これらの証拠をひとつひとつ確認すると性差の存在が確実なように思えます。また足元を見るため自施設の症例も検討してみましたが、長期に免疫チェックポイント阻害薬を使っている人は圧倒的に男性でした。視点を変えてみると、代表的な女性の癌である乳がんは免疫療法の進歩があまりない分野です。乳がんはリンパ球浸潤に乏しい癌であり、これを免疫学的に”Cold tumor”と呼ばれ、免疫療法に反応しにくい一因とされています。詳しくは”Immunotherapy for Breast Cancer: What Are We Missing?”と題する論文がよくまとまっています[Vonderheide RH ClinCancerRes2017 PMID:28572258]。今回のメタアナリシスを通じ、著者らは性別の免疫療法を探索するように提案しています。本論文の結論で大きく動くということはないでしょうが、私たちがエビデンスとしているここ30年のデータは、細かい組織型と一部の遺伝子変異を対象として積み上げてきたものであり、免疫療法の登場により、性差という視点で一度ゼロベースで組み立て直さねばならないのかもしれません。