Entrectinib versus crizotinib in Asian patients with ROS1-positive non-small cell lung cancer: A matching-adjusted indirect comparison.
Yu Y et al.
Lung Cancer. 2024 Epub 2024 Nov 10.
PMID:39549678.
Abs of abs,
エヌトレクチニブとクリゾチニブは、ほとんどのアジア人患者が使用可能なROS-TKIである。 両剤の有効性は、直接比較されたことはなく、アジア人集団においては間接的にも比較されたことはない。今回は進行ROS1陽性非小細胞肺癌のアジア人患者を対象に、エヌトレクチニブとクリゾチニブの有効性と安全性の比較した。 全生存期間と無増悪生存期間を含む有効性と安全性を、非アンカー(共通の対照群を持たない)マッチング調整間接比較(MAIC)を用いて評価した。エヌトレクチニブの試験(ALKA-372-001/EudraCT 2012-000148-88、STARTRK-1/NCT02097810、STARTRK-2/NCT02568267、用量は1日1回600mg以上)の個々の患者データ(IPD); 登録カットオフ:2020年7月2日、データカットオフ:2021年8月2日)と、クリゾチニブの試験(OxOnc/NCT01945021、用量:250mg、1日2回)の擬似IPDをシミュレートした集計データを解析した。 クリゾチニブ試験の主要適格基準をエヌトレクチニブ試験のIPDに適用した。 ベースラインは傾向スコアによる重み付けを用いて両群間で調整した。エヌトレクチニブ試験およびクリゾチニブ試験からそれぞれ52例および127例の患者が評価に利用可能であった。 OS中央値は、エヌトレクチニブ群では未到達[28.3-NR]、クリゾチニブ群では44.2ヵ月[32.0-NR]であった(ハザード比0.662[0.32-1.37])。PFS 中央値は 39.4ヵ月[10.4-46.8]、15.9ヵ月[12.9-24.0]であった(ハザード比0.688[0.37-1.27])。 多くの有害事象はグレード1-2であり忍容性は良好であった。最もよく見られたグレード3、4の有害事象は好中球減少であり、エヌトレクチニブ、クリゾチニブともにあった。 ROS1陽性非小細胞肺癌のアジア人患者を対象とした本MAIC試験の結果は、エヌトレクチニブがクリゾチニブより有用性が高い傾向を示した。 このことはより良い治療決定に寄与する可能性がある。
感想
臨床試験をそのまま横比べするのは、手法的にはご法度でも皆やっています。ROS1については数が少ないのでギリギリ臨床試験ができる程度の症例数しか集まらず、大規模第Ⅲ相は難しいのが現状です。時代背景が違いますが、クリゾチニブでは大体PFS15ヵ月、エヌトレクチニブでも同じようなものです。ただしエヌトレクチニブの開発経緯からROS1に多い脳転移へ効果を期待できる内容となっており、またクリゾチニブPD後にエヌトレクチニブで効く症例があることから、エヌトレクチニブの方が良いだろうということは予想できます。今回はそれを少し高級な方法でやってみたというところです。今回の著者はエヌトレクチニブを持っているロシュ側の研究者であり、その試験での個別データを手に入れられますが、クリゾチニブ側のデータは手に入りません。この個別データは生存曲線から作り出した疑似的なものです。データを作った後のMAICは、Rでパッケージ”maic”として実装されています。
肺癌学会ガイドライン2024ではクリゾチニブ、エヌトレクチニブ、レポトレクチニブのいずれかの単剤療法を強く推奨する、とあり特別に薬剤間での格差は付けられていません。似たような変異としてALK-TKIでは推奨の強さに差が付けられています。徐々にドライバー変異が増えていくにつれ、個別の薬の差を比較する余裕はなくなり、結局統計的な技術を使って疑似的に検討していくしか無くなっています。傾向スコアやネットワークメタ解析など危うい論文が多くなり、どこまで信頼してよいものか判断が難しくなっています。「投与経験」というものはEBMで無視されるような存在ですが、経験の蓄積もやがて見直されるべきものではないかと思っています。