Survival outcomes and symptomatic central nervous system (CNS) metastasis in EGFR-mutant advanced non-small cell lung cancer without baseline CNS metastasis: Osimertinib vs. first-generation EGFR tyrosine kinase inhibitors.
Zhou Y et al.
Lung Cancer. 2020 Dec;150:178-185.
PMID:33186860.
Abs of abs.
中枢神経系転移は、EGFR-TKI治療を受けたEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌でよくみられるが、治療開始時に中枢神経系転移がない患者において、EGFR-TKIによる有症状の中枢神経系転移の発生率とそのリスクに関するデータはあまりない。第1世代または第3世代のEGFR-TKIを投与され、治療開始時に中枢神経系転移を伴わないEGFR遺伝子変異陽性進行性非小細胞肺癌患者を対象とした。全生存期間、病勢進行までの症候性中枢神経系転移の累積発生率とこれらの危険因子を評価した。813人の患者が登録され、治療薬としてゲフィチニブ562人、エルロチニブ106人、オシメルチニブ32人、また2次治療としてオシメルチニブ113人であった。追跡期間中央値18.1ヵ月における生存期間中央値は45.5ヵ月であった。38人に有症状の中枢神経系転移を発症した。オシメルチニブを投与された患者は、第一世代EGFR-TKIと比較して中枢神経系転移のリスクが低い傾向にあった(p=0.059)。しかし症状を伴う中枢神経系転移の累積発生率は、世代と関係なく約3年後にプラトーに達する傾向があり、それを超えると発生率は両群で同等であった。L858Rは19delよりも中枢神経系転移の発症リスクが高かった(p = 0.001)。興味深いことに、ベースラインの脳画像診断の有無は中枢神経系転移や生存期間のリスクとは関連していなかった。本研究から第一世代のEGFR-TKIと比較して、オシメルチニブは有症状の中枢神経系転移の発生を遅らせることはできるが、予防することはできない。L858Rは中枢神経系転移の独立した危険因子である。
感想
著者らが主張するオシメルチニブによって、「脳転移症状の発現を遅らすことはできるが、発症そのものは抑えられない」とした根拠は、Fig3Aで、36ヶ月を超えるとプラトーに達し差も11.8%対15.6%であったという現象を指しています。平均観察期間が18.1ヶ月(これも理解に苦しみますが)で、P=0.053なので差がないと結論するのはどうかと思います。FLAURA試験の付随解析[Reungwetwattana TJCO PMID:30153097]を見てもなかなかそうとは思い難いです。逆に生存曲線も交差しておらずオシメルチニブの方が良好で、むしろそのまま症例数を増やせば有意差になりそうな印象です。背景は、男性が41.7%でEGFR遺伝子変異陽性の研究としては多くなっている以外は、L858R、Del19の割合もほどほどで偏った印象もありません。
またTKI開始時に症状がなければ脳の画像評価をしてもしなくても生存期間が変わらないことから必要ないかもしれないとの主張もあります。この研究は中国で行われていますが、日本では受け入れがたい割切り方と思います。無症状の脳転移に対してTKIを先行することには同意しますが、それでも転移部位、サイズなどが分かると経過観察の大きな参考になります。また著者らはL858Rの方が脳転移しやすいとしていますが、逆の報告もあり結論は出ていません。あくまで個人の印象ですが、オシメルチニブの有効性は主に中枢神経系への効果と毒性の少なさによる免疫能力維持にあるように思います。そろそろあちこちからオシメルチニブの報告が上がる頃なので、特に日本人では第一世代を上回る効果があるかなど確認していく時期に来ています。