スタチン使用でICIの効果が高まるか?

Statin Use With Immune Checkpoint Inhibitors and Survival in Nonsmall Cell Lung Cancer.

Marrone MT et al.
Clin Lung Cancer. 2025 May;26(3):201-209.
PMID:39818516

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非小細胞肺癌におけるスタチンと免疫チェックポイント阻害薬の同時併用と肺癌死亡率および全死亡率との関連を検討した。SEER-Medicareを用いて、2007年から2017年の間に非小細胞肺癌と診断されICI治療を受けた65歳以上のメディケア受給者のレトロスペクティブ研究を実施した。患者は、最初のICI請求日から死亡、最後のICI請求から1ヵ月、または2018/12/31のいずれか早い日まで追跡された。スタチン使用と肺癌死亡率、全死亡率との関連は、背景因子、病理学的因子、治療関連因子、スタチン使用の傾向スコアで調整したCoxモデルを用いて推定した。1401例の患者において、非スタチン使用下でICIを受けた患者と比較して、スタチンとICIの同時使用は肺癌死亡率の41%低下と関連した(ハザード比0.59[0.35-0.99])。 スタチンの使用は同様に全死亡低下と関連していた(ハザード比0.62[0.41-0.94])。 PD-1阻害薬およびスタチンの種類に限定しても、一貫して逆相関していた。抗PD-L1治療が限られていたため、このサブグループでの解析は不可能であった。高齢者非小細胞肺癌において、ICIとスタチンの同時使用は肺癌死亡率および全死亡率低下と関連していた。これらの知見を確定するためには、前向きランダム化試験で、スタチンと初回ICIの同時服用の評価が必要で、基礎的な機序の解明、最適なスタチンとICIの組み合わせの決定といった研究が必要である。

感想
これまでスタチンと肺癌については多く研究されてきました。EGFR-TKIでも検討されたこともありますし、化学療法でも検討されています。しかし結果が一貫せずいつの間にか消えていってしまいました。さてスタチンは循環器疾患に欠かせない薬ですが、癌の生物学的機序としてYAP(Yes関連タンパク質)との関連が想定されています。これは、腫瘍免疫とPD-L1発現を制御するHippo経路の下流因子です。がんの進行や転移に関与しており、スタチンと抗PD-1療法の併用がマウスモデルにおいて腫瘍の退縮を促進することが示されています。またスタチンと抗PD-1療法の併用により、CD3+およびCD8+T細胞による腫瘍浸潤が増加したとの報告もあります。今回は登録データベースを活用して行った研究で、スタチン併用の定義はICI療法開始前12ヶ月間に1回以上のスタチン処方を受けたことです。統計的な細かい調整方法は今一つよくわかりませんが、スタチン併用により肺癌死亡、全死亡率ともに4割下がるのは、事実とすれば重大です。ただこれだけの差が事実であれば、すぐに気づきそうな気もします。Limitationで述べられていますが、このデータは喫煙者やBMIが欠落しており調整できていません。スタチン使用の動機として、喫煙→冠動脈疾患(特に男性)や体重増加(悪液質の逆)→高脂血症は大いにあり得ることで、これらのICIの効果予測因子がスタチン使用と交絡しているとも考えられます。
これまで何回か抗がん剤ではない安価な一般薬(あるいは微量栄養素)が、効果を高めるという仮説を取り上げてきました。これらは一種の夢ですが、私は一貫して懐疑的です。おそらくそのようなことがあれば、前向き試験をやるまでもなくはっきりと分かるし、勝手にあちこちで併用を始めると思います。あえて言えば、当初睡眠薬とされたサリドマイドだけが唯一例外ですが、これくらい強烈な薬害として記憶されるほどの副作用がないと抗がん剤としては望み薄なのではないかと思います。