Combination of Metformin and Gefitinib as First-Line Therapy for Nondiabetic Advanced NSCLC Patients with EGFR Mutations: A Randomized, Double-Blind Phase II Trial.
Li L et al.
Clin Cancer Res. 2019 Dec 1;25(23):6967-6975.
PMID:31413010
Abs of abs.
実験モデルや後ろ向き研究により、糖尿病かつ非小細胞肺癌においてメトホルミンによりTKIへの感受性が増強されることが示唆されている。今回はEGFR遺伝子変異陽性で糖尿病のない患者において、ゲフィチニブとのコンビネーションによりその効果を検証した。糖尿病のない224人の未治療ⅢB/Ⅳ期非小細胞肺癌を1:1にゲフィチニブとメトホルミン、またはプラセボに割り付けた。プライマリーエンドポイントは1年後の無増悪生存率であり、副次項目として全生存期間、無増悪生存期間、奏効率と安全性を評価した。探索的解析として血清IL6も測定した。フォローアップ中央値は19.15ヶ月で、1年PFS割合は、メトホルミン+ゲフィチニブで41.2%[30.0-52.2]、プラセボ+メトホルミンで42.9%[32.6-52.7]であった。無増悪生存期間(10.3ヶ月 vs 11.4ヶ月)および全生存期間(22.0ヶ月 vs 27.5ヶ月)は数字上メトホルミン群が低かったが、奏効率は同様(66% vs 66.7%)であった。PFSに関してIL6も含めサブグループ間で有意な差は見られなかった。メトホルミン群には下痢の発生が多かった(78.38% vs 43.24%)。今回、メトホルミン追加は、有意ではないものの結果を悪化させ毒性が増加するという結果となった。したがって非糖尿病患者の初回治療におけるTKIとの併用は支持されない。
感想
糖尿病患者の疫学研究から、ビグアナイド剤と死亡率の低下が報告され、経済性もあってメトホルミンと抗がん剤の併用の研究が進んでいます。主な機序としては、LKB1-AMPK経路を介してのmTORの抑制と言われています。このあたりはこの文献[Ben Sahra I MolCancerTher2010 PMID:20442309]が良くまとまっています。さて、同じデザインの研究がもう一つ報告されています[Arrieta O JAMAOncol2019 PMID:31486833]。こちらのPFSは13.1ヶ月 vs 9.9ヶ月:ハザード比0.60[0.40-0.94] P=0.03でOSは31.7ヶ月 vs. 17.5ヶ月:ハザード比0.50[0.28-0.90] P=0.02とpositive dataでした。どちらの結果が正確なのでしょうか? 判断をする材料はいくつかあります。まずこのArrietaらの研究は、オープンラベルで、TKIはゲフィチニブ以外にエルロチニブ、アファチニブが許容されています。またTKIナイーブ症例は共通ですが、前治療も許容されています。通常この手の薬の場合、数字上、PFSハザード比<OSハザード比となります。つまりPFSの方が開きが大きいことが多く、そうなっていない点も引っかかります。また優先的に知りたいのは初回治療でTKIを使ったときにどうかということであり、主観の入らないプラセボコントロールがよりbetterです。その意味では今回取り上げたLiらの研究の方が私は評価できると思っています。
このように既存の薬剤の新たな役割を見出していくのをドラッグリポジショニングと呼びます。これらは臨床医の勘や膨大な疫学調査から当たりをつけていくのですが、最近はAIによるプロファイリングも行われているようです。これまでメトホルミン以外にスタチン、抗生剤、抗真菌薬などが候補に挙がってきました。またニトログリセリン製剤を抗がん剤に加えた前向きランダム化第Ⅱ相試験もありました[Yasuda H JCO2006 PMID:16446342]が、第Ⅲ相では否定的な結果でした[Davidson A AnnOncol2015 PMID:26347110]。後ろ向きではどうしても多重解析となるため偶然と区別できないわけですが、当たれば大きいのでこれらの努力は必要です。臨床医としては意外な効き方をしたときに仮説を持っておくことがヒントになるでしょう。