化学放射線療法と免疫チェックポイント阻害薬の併用の失敗

Simultaneous Durvalumab and Platinum-Based Chemoradiotherapy in Unresectable Stage III Non-Small Cell Lung Cancer: The Phase Ⅲ PACIFIC-2 Study.

Bradley JD et al.
J Clin Oncol. 2025 Nov20;43(33):3610-3621.
PMID:41082707

Abs of abs,
根治化学放射線療法の後に病勢進行がない切除不能Ⅲ期非小細胞肺癌のPD-L1を標的とする免疫療法の予後を改善した。免疫療法はより早期、cCRTと同時に投与することで、さらに予後が改善する可能性がある。適格患者は、cCRTの開始時から投与されるデュルバルマブまたはプラセボを(2対1で)無作為に割り付けられた。cCRT完了後に病勢進行がなかった患者は、病勢進行するまで(最初の無作為割り付けに従って)強化デュルバルマブまたはプラセボの投与を受けた。主要評価項目は中央判定による無増悪生存期間であった。主要な副次評価項目には、奏効率、全生存期間、24か月時点での生存患者の割合(OS24)と安全性が含まれた。328人の患者がデュルバルマブ群(n=219)またはプラセボ群(n=109)に無作為に割り付けられた。PFS(ハザード比0.85 [0.65-1.12];P=0.247)またはOS(ハザード比1.03 [0.78-1.39];P=0.823)であり統計的な有意な差はなかった。OS24はそれぞれ58.4%対59.5%であった。奏効率はデュルバルマブで60.7%に対してプラセボで60.6%であった(差0.2% [-15.2-16.3%];P=0.976)。デュルバルマブ対プラセボで、それぞれ最大グレード3または4の有害事象(AE)が患者の53.4%対59.3%に発生し、肺炎または放射線肺臓炎は28.8%(グレード3以上:4.6%)対28.7%(グレード3以上:5.6%)に発生した。デュルバルマブまたはプラセボの中止につながったAEは25.6%対12.0%であった。致死的なAEは13.7%対10.2%であった。本試験において切除不能なⅢ期非小細胞肺癌において、cCRTの開始時から投与されたデュルバルマブは、プラセボと比較して追加の利益を示せなかった。根治的なcCRTに続くデュルバルマブ地固めが標準治療のままである。

感想
いわゆる優越性試験は長く語られますが、失敗に終わった試験はすぐ忘れ去られます。その失敗に終わった試験から学ぶことも新たな視点を提供してくれると思います。PACIFIC試験の成功を受け、より早期のICIは予後を改善することが期待されました。放射線治療を抜きに考えると抗がん剤→ICI単剤の逐次療法より、抗がん剤+ICI同時の方が良いことはいくつかの間接的証拠でわかっています。しかしこれに放射線が乗るとPFSは少しましに見えますが、OSは交差、奏効率も上がらず、逆に毒性は増強しました。同時併用部分のcCRT+デュルバルマブの効果の評価は難しいですが、OSが36.4ヵ月(PACIFICは47.5ヵ月[38.1-52.9])に加え奏効率も上がっているようには見えません。対照群はPACIFICのそれと治療は同じですが、PACIFICではcCRT奏効例が登録された点と全生存の起点が違います。今回の症例に時間だけ1.5ヵ月を引くとOS中央値で28ヵ月となり、PACIFICのプラセボ群29.1ヵ月と比較して、今回の症例がたまたま予後不良であったとは言えないと思います。つまり放射線とICIの同時併用は確実に良くないということになります。
想像ですが、放射線により腫瘍微小環境を壊してしまうと、起ころうとしている良い免疫反応まですべて台無しになるように見えます。つまり非小細胞肺癌のように比較的免疫が強く関係していそうな腫瘍(広義のHOT tumor)では、効果が落ちるのでは?と思えます。他には頭頚部癌でもcCRT+ペムブロリズマブvs cCRT+プラセボの試験が行われており(KEYNOTE-412)[Machiels JP LancetOncol2024 PMID:38561010]、PFSはわずかに改善しそうだが、OSは変わらずという結果で、毒性も増えています。また第Ⅱ相ですが同じく頭頚部癌でペムブロリズマブとcCRTを同時か逐次を比較した試験では逐次に軍配が上がっています[Zandberg DP JCO2025 PMID:40424564]。またこのPACIFIC 2では免疫療法の奏効因子とされた男性、喫煙者、Sq、PD-L1≧1%が、サブグループ解析で少しcCRTfavorに寄っておりICIの効果(がよりありそうな人の効果)を減少させている可能性があります。ちなみにCold tumorと言われる子宮頸癌ではcCRT+ペムブロリズマブのPFSの優越性が報告されており[Lorusso D LANCET2024 PMID: 38521086]、この考え方を裏付けています。化学免疫療法と放射線のタイミングは、腫瘍微小環境によって個別化が必要であり、臨床試験もより緻密に層別化して行わなくては最適なものは見つからないように思えます。