心身障碍者の肺癌、わずかに高い死亡率だが…

Disparities in the Diagnosis and Treatment of Lung Can∺er among People with Disabilities.

Shin DW et al.
J Thorac Oncol. 2019 Feb;14(2):163-175.
PMID: 30453082

Abs of abs.
心身障害の有無における肺癌患者の診断、治療、および生存における潜在的な格差についてはあまり報告されていない韓国国民健康サービスデータベース、障碍者登録データ、および韓国中央癌登録データから後ろ向きコホート研究を行った。肺癌と診断された合計13,591人の障碍者と、同じく肺癌と診断され年齢および性別が一致した43,809人の対照例を研究対象とした。ステージング不明症例は重度障害に多く(13.1%対10.3%)、特にコミュニケーション障害(14.2%)または精神/認知機能障害(15.7%)でより多かった。また障碍者では外科治療(調整オッズ比[aOR]=0.82[0.77-0.86])、化学療法(aOR=0.80[0.77-0.84])、放射線療法(aOR =0.92[0.88-0.96])を受ける傾向が低くなっていた。この高い傾向は、重度のコミュニケーション障害(手術0.46、化学療法0.64)と重度の脳/精神障害(手術0.39、化学療法0.47、放射線療法0.49)のある場合より明確であった。障碍者はわずかに高い死亡率を示した(調整ハザード比=1.08[1.06-1.11])。肺癌と身体障害のある患者、特に重症の患者は、治療結果が障害のない人々のそれよりわずかに悪いだけであるものの、健常者と比較してステージングと治療を受けていなかった。ある程度の格差は臨床判断によると思われるが、コミュニケーションおよび脳/精神障碍者に対するケアの不平等は、改善すべき不当な障壁の存在を示唆している。

感想
韓国は福祉手当支給のための登録制度があり、癌登録制度もあり国民保険制度も皆保険に近く日本とよく似た状況のようです。今回対象となった期間は2009-2013年で肺癌と診断されたのは全体で62832人でした。肺癌と診断された障碍者はわずかに年齢が若く68.9歳(vs. 69.7歳)で、女性はわずかに少ない傾向を示しました。また心肺機能障害では早いステージで見つかる傾向にありました。治療選択にはさまざまバイアスがかかっていますが、そもそもステージングすら不可能な症例がある程度あることは予想されますし、それを除いて全死亡率がわずかに高いことにとどまっているのは臨床判断がそれなり効いていることを示唆していると思います。一番悩ましいのは手術により根治できる場合でしょう。この外科手術を受けた障碍者でのハザード比は1.28、身体の高度障害の場合1.71と高くなっていました。周術期も含め自己管理が難しい、健常者では何ともないマイナートラブルへの対処など様々な困難が重なることが原因でしょう。
日常診療でも様々な障害のある方の肺癌診断、治療に迷うことがあります。診断治療するだけではなくその後の事も考えた対処が望まれます。意外にうまくいくこともあれば、予想外のこともあり一筋縄ではいかないと感じています。また今回の内容は最も遭遇する高齢者の認知症は含まれていないことに留意すべきです。どの施設でも認知症をベースにした疾患は避けられないところですが、簡単な指標はなく、気管支鏡検査に耐えられるか、トラブル発生時の入院に耐えられそうかなど総合的に判断していくしかなさそうです。