Tarlatamab in Small-Cell Lung Cancer after Platinum-Based Chemotherapy.
Mountzios G et al.
N Engl J Med. 2025 Jun 2.Epub ahead of print.
PMID:40454646.
Abs of abs,
DLL-3 T細胞エンゲージャー免疫療法であるタルラタマブは、既治療小細胞肺癌の治療薬として早期承認された。プラチナ製剤をベースとする初回化学療法後に進行した小細胞肺癌に対して、タルラタマブが化学療法よりも有効であるかどうかは不明である。今回はプラチナ製剤ベースの化学療法中または後に病勢が進行した小細胞肺癌を対象に、2次治療としてタルラタマブと化学療法を比較する国際第3相非盲検試験を行った。患者はタルラタマブまたは化学療法(トポテカン、ルルビネクテジン、アムルビシン)を受ける群に無作為に割り付けられた。 主要評価項目は全生存期間であり、副次評価項目として主治医評価による無増悪生存期間と患者報告によるアウトカムを採用した。本報告は事前に規定された中間解析(データカットオフ日:2025年1月29日)の結果である。509例の患者がタルラタマブ投与群(254例)と化学療法群(255例)に無作為に割り付けられた。タルラタマブ治療は化学療法よりも全生存期間を有意に延長し(13.6ヵ月[11.1-未達]vs. 8.3ヵ月[7.0-10.2]、ハザード比0.60[0.47-0.77];P<0.001)。タルラタマブ治療は、化学療法と比較して、無増悪生存期間、癌に関連した呼吸困難および咳嗽に関しても有意な有益性を示した。グレード3以上の有害事象の発生率は化学療法よりもタルラタマブの方が低く(54%対80%)、治療中止に至った有害事象の発生率も低かった(5%対12%)。プラチナ製剤ベースの化学療法中または化学療法後に病勢が進行した小細胞肺癌において、タルラタマブによる治療は化学療法よりも全生存期間の延長を示した。
感想
今回は中間解析の結果ですが O’Brien-Fleming法は当然としても、どのようにαを振っていたのかはわかりません。また症例設定でどれくらいを想定していたかはプロトコールを見ても黒塗りだらけです。あくまでも主催者が「プライマリーエンドポイントを達成した」というのを信じるしかありません。私は当局でもなければ権力者でもありませんから、しかるべき場所に「事前に」プロトコールが届けられているシステムになっているはずと思うしかありません。
第2相試験[Ahn MJ NEJM2023 PMID:37861218]では、同じサブグループでの奏効率40%、OS15.2ヵ月でしたので、今回の奏効率35%、OS13.6ヵ月は、これをほぼ再現した形となります。PFSは中央値で4.2ヵ月対3.7ヵ月であまり大きな差がないように見えます。個人的に面白かったのは「比例ハザードの仮定は妥当ではない」と判断され、RMST(Restricted Mean Survival Time)法を使っています。これはカプランマイヤー曲線下面積を使って比較するものですが、直感的なわかりやすさはあってもハザード比に要約出来ないことから議論しにくさはあります。逆に自ら比例ハザード性がないと認めたことから、PFSについては群間ハザード比が時間で一定でない(可能性がある)と言えます。半年くらいまではPFS曲線は重なっており、反応する人しない人に大きな差があることが示唆されます。免疫療法特有のものとも言えますが、ここは今後のバイオマーカーの開発を待ちたいところです。
副作用についてグレード3以上で比べるのはやや適正を欠きます。気になるサイトカイン放出症候群はタルラタマブの56%に見られ、ICANSを含む神経系の有害事象も56%に見られ(ICANSは6%、死亡1例)依然としてマネジメントの習熟が求められる薬であることに変わりありません。タルラタマブは画期的新薬であることは認めますが、実際に使用する側としてはICANSが困るわけで、これをディスカッションにあるように”occurred infrequently”と片づけるのは感心しません。美しく言い換えるならば、製薬メーカーとしての開発はここまでで、いかにこの薬の良いところを最大限引き出すかは臨床家の役割とも言えます。今後この薬に関する報告は多数でてきますし、長期予後についても未知です。さらに年齢の限界、膠原病、間質性肺炎などの合併症、共存する遺伝子変異との関連など検討すべき課題は山ほどあります。