Lung adenocarcinomas with mucinous histology: clinical, genomic, and immune microenvironment characterization and outcomes to immunotherapy-based treatments and KRAS G12C inhibitors.
Di Federico A et al.
Ann Oncol. 2025 Mar;36(3):297-308.
PMID:39637943
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肺腺癌の約10%が粘液性を有し、これは喫煙歴が軽度/非喫煙であること、KRAS遺伝子変異の有病率が高いことと関連している。今回はこれと粘液産生像を示さない肺腺癌と比較することで特徴を明らかにし、現在の治療法の相対的有益性を明らかにすることを目的とした。粘液産生または非産生肺腺癌に分類された5施設およびThe Cancer Genome Atlas Pan-Cancer Atlasの肺腺癌患者を対象とした。臨床病理学的、ゲノム、免疫表現型、転写の特徴、治療成績を比較した。肺腺癌患者4082人のうち、9.9%が粘液産生型であった。粘液産生型は喫煙歴が軽く(中央値15対20packyear、P=0.008)、TPSスコアが低く(中央値0%対5%、P<0.0001)、腫瘍変異負荷が低かった(中央値6.8対8.5変異/megabase、P<0.0001)。KRAS、NKX2-1(TTF-1)、STK11、SMARCA4、GNAS、ALK再配列の変異は粘液産生型で多かったが、TP53、EGFR、BRAF、MET変異は粘液非産生型で多かった。 Ⅳ期において、粘液産生型は対側の肺転移を有する可能性が高く(55.2%対36.9%、P<0.0001)、脳転移を有する可能性は低かった(23.3%対41.9%、P<0.0001)。 また腫瘍内CD8+細胞、PD-1+細胞、CD8+PD-1+細胞、FOXP3+細胞が少なかった。 免疫チェックポイント阻害薬を投与された症例においては粘液産生型の奏効率(ORR 8.4%対25.9%、P<0.0001)が低く、無増悪生存期間中央値(2.6カ月対3.9カ月、P<0.0001)、生存期間中央値(9.9カ月対17.2カ月、P<0.0001)が短縮していた。 また化学免疫療法に対する予後が不良であった。KRASG12C阻害薬による治療でORR(16.7%対34.9%、P=0.12)とmPFS(4.6ヵ月対5.6ヵ月、P=0.17)は同等であったが、粘液産生型では生存期間中央値(6.8ヵ月対10.8ヵ月、P=0.018)が短縮していた。 今回の結果から粘液産生型肺腺癌は臨床病理学的背景、ゲノム、免疫表現、転写産物に特徴を有する集団であり、標準的な免疫療法に対して予後不良であった。
感想
病理組織像からの情報は軽視すべきでないと再認識させられる報告です。その昔遺伝子情報がなにもわからない時代には組織型を細分化し、背景や予後比較が良く行われていました。ここ20年の遺伝子解析の進歩により、組織型より遺伝子変異という考え方が支配的になっていました。今回の重要な点は粘液産生型腺癌では、免疫チェックポイント阻害薬およびKRAS G12Cがあってもその阻害薬の効果が低いことです。この理由として粘液産生型に喫煙歴、PD-L1発現、TMBが低いこと、STK11、KEAP1、SMARCA4変異を持っている割合が多いことが挙げられています。さらに粘液産生性を2つに分けており、浸潤性粘液腺癌として報告されたものをpureとし、混合型をfeatureとしています。この間には喫煙歴、PD-L1やゲノム変異の分布が多少違いましたが、ICIに対する反応は悪く、全体的な予後はpureの方が少し良いようでした。
粘液産生性は肺腺癌の10%程度しかありませんが、免疫療法単独および免疫複合療法に対して反応性が悪く、G12C阻害薬に対しても反応が良くないことは非常に重要な臨床情報です。あまり良い情報は入っていませんが、ICIや分子標的薬の継続可否の決断には役立つ情報になると思います。