術前治療としてのオシメルチニブの意外な結果

Neoadjuvant Osimertinib for the Treatment of Stage I-ⅢA Epidermal Growth Factor Receptor-Mutated Non-Small Cell Lung Cancer: A Phase Ⅱ Multicenter Study.

Blakely CM et al.
J Clin Oncol. 2024 Sep 10;42(26):3105-3114.
PMID:39028931

Abs of abs,
外科的に切除可能なI~ⅢA期のEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌に対する術前化学療法として、第3世代TKIオシメルチニブの安全性と有効性を評価した。 外科切除可能なI-ⅢA期のEGFR遺伝子変異(L858R・Del19)陽性患者を対象とした多施設共同第Ⅱ相試験である。手術前にオシメルチニブ80mgを1日1回、最大2サイクルまで28日間経口投与した。主要評価項目は主要病理学的奏効(MPR)率であった。 副次項目として安全性と有効性を評価した。 探索的項目として治療前および治療後の腫瘍変異プロファイリングが含まれた。 計27例の患者が登録され、外科切除の前に中央値で56日間の術前オシメルチニブ治療を受けた。 24例(89%)がその後手術を受け、3例(11%)が最終的に化学放射線療法に変更された。 MPR率は14.8%[4.2-33.7]であった。 病理学的完全奏効は認められなかった。奏効率は52%、DFS中央値は40.9ヵ月であった。 治療関連の重篤な有害事象は1例(3.7%)であった。 有害事象のために外科的切除を受けられなかった患者や手術延期はなかった。 併発したゲノム変化で最も多かったのはTP53(42%)とRBM10(21%)であった。本試験より外科切除可能なI-ⅢA期EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌に対する術前オシメルチニブによる治療は、主要評価項目であるMPR率を満たさなかった。 一方でオシメルチニブ術前療法は予期しない有害事象や手術遅延はなく、有意な切除不能割合でもなかった。

感想
ドライバー変異が分かるにつれ進行再発期あるいは術後補助化学療法が細分化されています。最近はICIによる術前治療が盛んになりつつありますが、現在のところEGFR/ALK陰性例に限られています。術前治療はその後の経過も長いことからDFSで評価されることが多く、またその代替指標としてのmajor pathlogical responseも重要視されます。術後で検体を全評価できるので非常に魅力的な指標です。ICI併用の場合、KEYNOTE067でもCheckMare816でも、PCR率20%程度、MPR率30%程度はありますので、少数例とはいえダブルスコアで負けているということになります。またTKIの切れ味からしてもかなり意外に思えます。もちろん統計設定も帰無仮説を20%に置き、期待MPR率を50%としており、予想が大幅に外れたことを示しています。術後に入れたADAURAでのstageIB-ⅢAのDFSが65.8ヵ月[Herbst RS JCO2023 PMID:36720083]であり、今回の40.9ヵ月も良くないです。従来症例数の少ない第Ⅱ相がJCOに載ることは少ないのですが、この意外さがかなり評価されたのか、エディトリアルでも取り上げられています。エディトリアルでは導入の方向で大きく進歩してきた術前治療の「Crossroads:岐路」と表現しています。第Ⅱ相では結論は出ないとは言え、かなり大きな一石を投じる結果となっています。
今回の結果の理由について、併存するゲノム変異のTP53、RBM10の影響を挙げています。TP53はTKIを減弱する因子として既知ですが、TP53野生型でもMPRが18.2%と理由としては弱いです。またRBM10変異がある場合のMPR0%ですが、全部で4例とごく少数に過ぎません。一方効果の高いはずの19Delで見ても、50%以上の病理学的縮小は70%と高いですが、MPR10%と低く印象とは異なります。2か月間のオシメルチニブ投与ではMPRを得るには不十分な可能性もあります。しかし術後よりDFSが劣るのは困ります。結局今回の結果が悪かった理由はよくわかりません。偶然かもしれませんし真実かも知れません。DFSの短さに関しては、微小転移を制御するのに2ヶ月では足らないということでしょう。このまま無理に進めようとすれば、術前治療を抗がん剤+オシメルチニブにする、術前投与期間を長くする、術後も入れる、予後不良因子があるものは除くことが挙げられます。現在第Ⅲ相NeoADAURAも並行して行われており、その結果も合わせて慎重に見るべきでしょう。現時点で言えるのは外科切除可能な症例に対して、まずTKIで縮小させて手術、その後何もしないという方針には慎重な議論が必要ということです。