輸血の既往が予後を変える?

Prognostic impact of blood transfusion in patients with metastatic non-small cell lung cancer receiving chemotherapy.

Sakin A et al.
Lung Cancer. 2019 Jul;133:38-44.
PMID:31200825

Abs of abs.
進行非小細胞肺癌における初回治療での自己血でない通常輸血が予後に及ぼす影響を調査した。これは治療前あるいは治療中に輸血を受けた患者と非輸血患者の比較により行った。進行非小細胞肺癌で初回治療を受けた433人について後ろ向き解析を行った。輸血の受け方により3カテゴリーに分類した。非輸血群(group-U:303人)、治療前に輸血歴がある群(group-B:43人)、治療中輸血群(group-D:87人)である。これらは89.6%が男性で、年齢中央値は60歳[21-92]、各群の生存期間中央値は14ヶ月、9ヶ月、7ヶ月(P<0.001)であった。サブグループ解析において扁平上皮癌に限ると生存期間中央値が11ヶ月、12ヶ月、9ヶ月(P=0.074)となった。腺癌では21ヶ月、7ヶ月、6ヶ月(P<0.001)であった。治療中の輸血の実施は全生存期間に関する独立したネガティブな因子であった(ハザード比は無増悪生存期間に対して1.50[1.15-1.97]、全生存期間に関して1.36[1.04-1.80])。結論として、輸血は病勢進行と生存期間短縮に関係し、特に腺癌では強く見られた。従ってこの群での輸血は制限されるべきであり、利益が進行のリスクを上回るよう考えねばならない。

感想
新たな視点を持たせてくれる論文です。腎移植の世界では輸血により免疫抑制が起こり良い効果を招くという報告がなされているようです。担癌患者においては輸血歴は予後不良因子として報告されています。理由の如何を問わず輸血が必要ということは、全身状態不良を示すので予後不良はむしろ当然と言えます。しかしそれを除いても、輸血で免疫系が変化する可能性があるということは、非小細胞肺癌において、免疫療法が主軸になりつつある現在少し気にしておく必要があります。機序としては、輸血内に入っている白血球によって免疫システムが変化するという考え方で。NK細胞減少、ヘルパーT細胞の減少および抗原提示能の低下が原因として考えられています。現在の赤血球液-LRの添付文書には「ヒト血液から白血球及び血漿の大部分を除去した赤血球に保存用添加液を混和したもの」とあり、その名の通りLR(leukocytes reduced)であるわけです。現在日本では、さらに採血時に白血球除去の手法がとられており、諸外国とは若干状況が違うかも知れません。さて本論文の内容では、3群の生存解析にP値を与えたり、3カテゴリー以上に対し多変量解析をしたり解析方法に明らかな不備があります。また残念なことに今回は免疫療法の患者は入っていないようです。それらを引いても、輸血療法の既往が免疫療法に影響を与えるのかどうか興味をひかれる点で面白い論文と感じました。