(私見)免疫療法+抗がん剤は効くという実感を持てるか?

免疫チェックポイント阻害薬を2次治療で使った場合、臨床試験で延命効果は証明されていますが「よく効いている」という実感はあまりありません。この「効く感触」は、腫瘍縮小効果と無増悪生存期間を足して2で割ったような感触(?)なので、以下の話は雑談として聞いてください。個人で経験できる患者数には限りがあり、大規模臨床試験のような差は実感しにくいというのも一理あります。しかしJ-ALEX試験[Hida T Lancet2017 PMID:28501140]のアレクチニブのように、個人のレベルでも明らかにクリゾチニブとは違う効果を感じる薬もあります。これらの差はどこから来るのでしょう。逆に臨床試験の差が、個人で実感できるかどうか推測する手段はないものでしょうか? 今回は生存曲線の形と印象との相関について私見を述べてみたいと思います。

生存曲線、効果を感じやすい例

まず効果が感じにくい例を考えます。従来の殺細胞性抗がん剤どうしの比較は、見た目の差を保ちながら少し上を行くパターンが一般的でした(A)。全生存曲線はある程度長期にわたり様々な後治療が入るので、一つの薬剤の感触はどうしても感じにくいでしょう。薬剤の効果という意味ではPFSで見るのが適切かと思います。PFS曲線の中でも時間が経ってからよりも、開始早期段階での効果が実感されやすいと想像されます。これは早く縮小するほうがわかりやすく、またOSとPFSの差のように12ヶ月対20ヶ月の差よりも3ヶ月対5ヶ月の方が強く意識されるからでしょう。2群のPFSがまったく重なる状況であれば、当然のことながら差は感じられません。再発扁平上皮癌に対するニボルマブ対ドセタキセルの試験[Brahmer J NEJM2015 PMID:26028407]の状況を考えます。半分だけに効く集団がいる場合を想定すると、理屈上半数がイベントを起こすまで、PFS曲線が重なります(B)。したがって多くの症例で効果が感じられない。ここまでは至極当然のことでしょう。

では効果が感じられるのはどのような場合でしょう。まずPFSが明らかに大きく離れているものは効くと感じられるでしょう。前述のJ-ALEXは生存率90%くらいからカーブが開き始めます。しかも開きはだんだん大きくなります。荒っぽく表現するならば10人中9人が従来薬と違う感じになるわけで数例の経験でも違うことが実感できそうです。ゲフィチニブではどうでしょうか。初回治療のゲフィチニブ対化学療法の比較を行ったNEJ002試験[Maemondo M NEJM2010 PMID:20573926]では、PFSは80%くらいから大きく開いています。始めの方から開くのは当たり前ですが、大きく開いていくことも重要です。ゆっくりと曲線が落ちていくことはイベントの起こり方が遅くなっていることを表しており、これも効果を感じさせる重要なポイントと思います。つまり差があっても対照群とイベントの起こり方があまり変わらない(同じような形をして落ちていく)場合は、効果が感じられにくいと想像できます(C)。もちろん同じように落ちるということは、ハザード比が大きく変わらないので当然かもしれません。この形がドセタキセル+ラムシルマブの試験[Garon EB LANCET2014 PMID:24933332]です。これでは生存率80%くらいから開いていますが、あまり差が開きません。では最初に開くけれども、後で差が縮まってくるパターン(D)はどうでしょうか。エルロチニブ+ベバシズマブのJO25567試験[Seto T LancetOncol2014 PMID:25175099]のPFSがこのパターンです。最初から大きくカーブが開きます。試験治療群において曲線が上に凸、つまりイベントの起こり方が遅れ、かつ開きも大きいことから最も実感として効いている印象を受けるでしょう。ベバシズマブでは日本国内で行われたカルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブのランダム化第Ⅱ相試験(JO19907)[Niho S LungCancer2012 PMID:22244743]でもよく似たパターンとなっています。長年ベバシズマブ追加で、PFSが開くのに延命効果が今一つ確かめられなかったのは、このようなPFS曲線のパターンのために効果を(必要以上に)強く印象づけられてしまい期待し過ぎた可能性があると思います。それまでの化学療法対化学療法の比較試験(A)では、試験治療群で初期のイベントが極端に減るようなパターンはなかったように思います。その延長線上で考えていたことが「これだけPFSが開くのにOSにあまり差がないのはなぜか」という議論が長く続いた一因かもしれません。
この観点から「免疫チェックポイント阻害薬+抗がん剤」を見てみます。総じてはるか昔の抗がん剤対抗がん剤のPFS曲線(A)によく似ています。IMPOWER150試験[Socinski MA NEJM2018 PMID:29863955]では生存率80%くらいからカーブが開きますが、後で差が少し開くパターンで落ちていきます。半分まではイベントの起こり方が変わる印象はありません。中央値での差も2ヶ月なく、差を実感するのは難しいかもしれません。しかしハザードは0.62あり人によっては「なんとなく良い感じ」が得られるかもしれません。KEYNOTE189試験[Gandhi L NEJM2018 PMID:2965885]では、TPS1-49%が70%くらいのところで大きく開きます。TPS50%以上の集団では90%くらいから大きく開くので、TPSが50%以上あるいはそこまで行かないまでも高めの人については、イベントの起こり方が遅くなっているので効果を感じられる可能性があると思います。扁平上皮癌対象のKEYNOTE407試験[Paz-Ares L NEJM2018 PMID:30280635]では90%あたりから開き、イベントも遅れている感じも少しするので、効果が感じられるかもしれません。

まとめると免疫チェックポイント阻害薬+抗がん剤を、私たちがした場合、総じて大きな効果は実感できず、わずかに感じる程度ではないかと予想します。しかしその感触は、これまで20年前より積み重ねてきた従来型の化学療法の進歩と同じようなもので、ごくわずかなものでしょう。しかし後で振り返った場合、それがわずかでも確実に延命に寄与するものになっていることを期待したいと思います。