Post-Treatment Mortality After Surgery and Stereotactic Body Radiotherapy for Early-Stage Non-Small-Cell Lung Cancer.
Stokes WA et al.
J Clin Oncol. 2018 Jan 18: [Epub ahead of print]
PMID: 29346041
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早期の非小細胞肺癌の場合、高リスク手術患者において治療後の死亡率に関する情報は、定位放射線療法(SBRT)を選択するかどうかの意思決定に影響を及ぼす。これらの早期死亡率をNational Cancer Databaseを用いて分析した。手術またはSBRTのいずれかを受けている2004-2013年に診断されたcT1-T2a、N0、M0であるNSCLC患者を抽出した。治療後30日と90日の死亡率を計算し、Cox回帰および傾向スコア分析を用いて比較した。手術を施行した76623人の患者(肺葉切除78%、区域切除20%、肺全摘術2%)とSBRTを受けた患者8216人を比較した。アンマッチコホートにおいて、30日死亡率は手術2.07%、SBRT0.73%の(差1.34%);P<0.001)。90日死亡率は3.59%対2.93%(差0.66%; P<0.001)。傾向スコアを一致させた27,200人の患者の中で比較すると、これらの差は増加した(30日死亡率、2.41%対0.79%(差1.62%); P <0.001; 90日死亡率、4.23%対2.82%(差1.41%); P<0.001)。手術とSBRT間の死亡率の差は年齢とともに増加し、30日と90日の両方で差が見られた。71-75歳:30日死亡差1.87%、90日死亡差2.02%、76-80歳で30日死亡差2.80%、90日死亡差、80歳超で30日死亡差3.03%、90日死亡差3.67%、すべてP≦0.001)。SBRTと比べて、手術死亡率は、切除範囲が多くなると増加していた。(30日と90日死亡率は多変量ハザード比でそれぞれ区域切除、2.85、1.37、肺葉切除で2.85と1.37、肺全摘術14.5と5.66;すべてP < 0.001)。今回の結果から、手術とSBRTの死亡率は、年齢とともに増加し、特に70歳以上の患者ではSBRTとの間に大きな差が見られた。これらの死亡率データは、両方の治療の対象となる早期非小細胞肺癌の患者と情報共有し、その意思決定に役立つものと思われる。
感想
私が診療している地域でも高齢化が進んでおり、まだまだ高齢者の肺癌が増えそうです。高齢者にどこまで手術するかは尽きない論争です。特にリンパ節転移のない末梢型では定位照射の選択肢があり、標準治療として定着しています。しかしその境界についてはケースバイケースです。実地で見ていてもPETを行ってⅠ期と判断された場合、手術と全く劣ることがないと感じます。今回は米国からの報告で、よくある比較ではあります。手術 vs. SBRTで傾向スコアマッチングで行われてきたのは、主に長期予後についてでした。旧ブログでも記事にしています(Ⅰ期非小細胞肺癌に対する定位照射は手術を上回るのか(http://blog.livedoor.jp/j82s6tbttvb/archives/45185398.html)。そこでは症例数があまり多くなかったのですが、おそらく大きな差がないだろうと書きました。傾向スコアを使った研究が最近多いのですが、多数の要素でマッチさせるため、何千という症例があるのが基本です。しかし数十から100例程度の元症例からマッチさせている研究もあり、手法として正しいのかどうか確信が持てません。もし手法として正しいのであれば最近のメタアナリシスの乱発と似て、今後も爆発的に増えるかもしれません。話題が少しそれましたが、この研究がJCOに掲載されたのはその症例数の多さが要因と思います。手術が7万人あまり、SBRTが1万弱あり、傾向スコアマッチングに残ったのものも3万人弱と十分なサンプルサイズです。傾向スコアの因子に採用したのは、年齢、診断年、性別、人種、収入、施設、合併症、部位、T因子、組織型でした。これらをマッチさせた手術対SBRTの累積死亡率のグラフが補遺にあります(FigA2)。30日死亡より90日死亡の開きがやや縮まっており、手術による周術期死亡率を反映したものとなっており気になります。日本での少し大規模なものを探してみると、2005-2010年の1137例についての手術成績の報告がありました[富沢 肺癌学会誌2013]。それによると30日死亡率0.35%、90日死亡率0.79%でした。今回のすべての手術の30日死亡率が2.07%であり、やはり日本は手術が上手だと思います。一方すべてのSBRTの30日死亡率は0.73%で、日本では手術のほうが良い可能性は残ると思います。しかしあくまで単純比較の話です。全体としての傾向はわかっても、これまでのように一人一人について細かく考えていく努力は必要でしょう。