KRASと併存するSTK11とKEAP1変異の免疫療法における意味

Diminished Efficacy of Programmed Death-(Ligand)1 Inhibition in STK11- and KEAP1-Mutant Lung Adenocarcinoma Is Affected by KRAS Mutation Status.

Ricciuti B et al.
J Thorac Oncol. 2021 Nov2:Epub ahead of print.
PMID:34740862.

Abs of abs.
STK11とKEAP1遺伝子変異は、肺腺癌でよく見られる遺伝子変異である。STK11変異は、KRAS変異陽性肺腺癌におけるPD-L1阻害薬に対する抵抗性と関連するが、KRAS野生型の肺腺癌に対する免疫療法への影響はよくわかっていない。また、KEAP1変異がKRAS変異およびKRAS野生型肺腺癌におけるPD-(L)1阻害薬に与える影響もよくわかっていない。Dana-Farber Cancer Institute/Massachusetts General HospitalコホートおよびMemorial Sloan Kettering Cancer Center/MD Anderson Cancer Centerコホートの進行肺腺癌患者から背景および遺伝子データを2013年9月から2020年9月まで収集した。PD-(L)1阻害薬に対する転帰を、2つの独立したコホートでKRAS、STK11、KEAP1変異に応じて解析した。Cancer Genome Atlasのトランスクリプトームデータで、KRAS/STK11およびKRAS/KEAP1共変異の有無により腫瘍遺伝子発現および腫瘍免疫細胞サブセットの差異を確認した。計1261人の患者コホート(年齢中央値61歳、女性708人(56.1%)、喫煙者1065人(84.4%))のうち、KRAS変異は536例(42.5%)で検出され、STK11変異とKEAP1変異は評価対象例のそれぞれ20.6%(1261例中260例)、19.2%(1202例中231例)に検出された。各独立コホートおよび統合コホートにおいて、STK11およびKEAP1変異は、KRAS野生型肺腺癌ではなくKRAS陽性肺腺癌において、免疫療法に対する無増悪生存期間悪化(STK11 HR2.04, p<0.0001; KEAP1 HR2.05, p<0.0001)および全生存期間悪化(STK11 HR2.09, p<0.0001; KEAP1 HR2.24, p<0.0001) と有意に関係していた。遺伝子発現と免疫細胞解析により、同じSTK11またはKEAP1変異が存在しても、KRAS陽性においては異なる免疫表現形をもたらすが、KRAS野生型においてはそうではないことが明らかになった。本研究からSTK11およびKEAP1変異は、KRAS陽性肺癌患者の免疫療法に対して予後悪化因子であるが、KRAS野生型に対してはそうではない。KRAS/STK11変異とKRAS/KEAP1変異を同時発現する腫瘍は、遺伝子発現と免疫細胞浸潤の点で異なる免疫プロファイルを示す。

感想
STK11/LKB1遺伝子変異は非小細胞肺癌の15%ほどに発生し細胞代謝、極性を調節し、腫瘍抑制因子として機能しています。また腫瘍浸潤性の細胞傷害性CD8陽性Tリンパ球の減少に関連しています。また生殖細胞でのこの変異はPeutz–Jeghers症候群と関連しています。KEAP1遺伝子変異は、肺腺癌の20%ほどに発生し酸化ストレスの改善に重要な抗酸化反応の主要な調節因子であるNrf2と相互作用します。またCD8陽性T細胞およびNK細胞の浸潤を減少させ免疫微小環境にも関連しています。またこれも腫瘍抑制因子として機能します。腫瘍増殖因子としてのKRASとこれらの腫瘍抑制因子、および免疫細胞への与える影響を持った変異で頻度の高いものについては興味深いところです。
主たる結果は、Fig2のKRAS変異陽性、かつSTK11/KEAP1変異ありでの免疫療法の奏効率の低さとFig3、Fig4の同集団でのPFSの悪さです。OSについては起点も統一されておらず、また腫瘍自体の自然史、他の治療の効果もあり何とも判断できません。補足データではSTK11/KEAP1変異の存在がプラチナベースの抗がん剤に対する効果が落ちることも示されています。
腫瘍側からの免疫療法の研究は、PD-L1、TMBが2本立てでしたが、そこに効果を減弱させる共存遺伝子変異がわかってきています。今回はその方向での成果であり、今後遺伝子パネルが精密化するにつれ多くの組み合わせが報告されると思います。しかし多重解析であり、前向きあるいは別データでの再現性の確認が必須です。この辺りは最終的にAIによって総合的に検討されるようになると思います。