KRAS変異 なぜ標的はG12Cなのか?

総説: 肺癌とKRAS―その分子生物学と治療戦略

古賀教将ら
肺癌.2022;62:188-199

感想
KRASの歴史とその阻害薬に関する日本語の総説です。KRASは変異箇所が限られEGFR遺伝子変異よりはるか前に見つかっています。しかしKRAS変異をターゲットとした創薬は失敗の歴史でもあります。その理由としてKRASとGTP結合の親和性が高く競合阻害が難しいこと。共存する変異が多く、また下流シグナルが複数あり耐性化が起こりやすいことが考えられています。
薬の開発はRASとGTPの親和性が高いことから結合阻害がなかなかできなかったことで難航します。しかし2013年にKRAS G12C変異にだけは結合を阻害できる部分(SⅡ-P)が見つかり、現在のソトラシブの開発につながりました。この薬は現在使用可能ですがKRAS変異肺癌の多様性によりEGFR/ALK-TKIのような強い効果が得られにくいことが確認されています。
わずかに進んだKRAS陽性肺癌の治療ですが、G12CはせいぜいKRAS変異の3割程度で薬の使える患者さんは多くありません。今回は日本語で非常にわかりやすく知識の整理ができる優れた総説であったのでご紹介しました。