KRAS陽性に対する免疫治療

Efficacy of Immune Checkpoint Inhibitors in KRAS-Mutant Non-Small Cell Lung Cancer (NSCLC).

Jeanson A et al.
J Thorac Oncol. 2019 Jun;14(6):1095-1101.

PMID: 30738221

Abs of abs.
KRAS変異は進行肺癌においてもっともよく見られる遺伝子変異である。これに対する分子標的治療が確立していないため、この集団は予後不良とされる。最近は免疫チェックポイント阻害薬(ICIs)の進歩により非小細胞肺癌の治療の幅が広がっているが、KRAS変異陽性非小細胞肺癌に対する治療効果は明らかではない。今回はこれらKRAS変異陽性非小細胞肺癌に対する日常臨床での効果を評価した。後ろ向き解析で、2013年4月から2017年6月にICIで治療された進行非小細胞肺癌患者の臨床録からデータを抽出、かつ利用可能な遺伝子変異情報と検体が残っていればPD-L1発現も解析に加えた。282人が初回もしくはそれ以降でICI治療を受けていた。このICIにはPD-1抗体、PD-L1抗体またはCTLA4抗体が含まれる。KRAS変異を有していたのは162人(57.4%)で、27人(9.6%)が何らかの他の遺伝子変異を持っていた。野生型は93人(33%)であった。PD-L1解析は128人(33%)に行われ、45.3%が1%以上、19.5%が50%以上であった。KRAS変異陽性では85人が解析され、PD-L1=1%以上が49.5%、50%以上が21.2%であった。KRAS変異とそれ以外の間に奏効率、無増悪生存期間、全生存期間で有意な差は見られなかった。またメジャーなKRAS変異の間(G12A、G12C、G12D、G12V、G13C)にも差が見られなかった。KRAS変異陽性非小細胞肺癌では、それ以外との比較で、1%以上、1%未満で見た場合、ICIの効果が常に高いものの有意ではなかった。特にこの傾向はPD-L1=50%以上で当てはまった。今回の検討から、KRAS変異陽性(すべてのサブタイプ)では、他の非小細胞肺癌とICIの効果は同等であるが、PD-L1発現による効果予測はKRAS変異陽性において特に信頼性のあるものとなっていた。

感想
有名なLC-SCRUMのデータでは日本人のKRAS変異は15%ほどであったと記憶しています。大腸癌以外、日本ではあまり重視されないKRASですが、免疫療法では少し参考になるかもしれません。今回の論文はフランスからの報告ですが、当地ではKRASが約30%とドライバー変異の中で最大を占めています。1980年代に発見されたras遺伝子で、40年近い歴史がありますが、ここをターゲットとした薬はなかなか成功していません。KRASは喫煙との関連が言われており、ICIの効果も喫煙と関連しており、その関係性は気になるところです。奏効率を見ていきます。KRAS陽性では、PD-L1<1%で19%、1-49%で25.6%、50%以上で35.3%でした。PFSも2.69ヶ月、4.86ヶ月、7.09ヶ月と同じKRAS陽性内で、PD-L1発現によって効果が変わる様子が見て取れます。詳細な変異部位による検討も示されていますが、各症例数が少なく、参考程度で確たる傾向を感じることはできません。ただし最近変異部位と併存している遺伝子異常で免疫療法の効果に差があるとする報告もなされています[Aredo JV LungCancer2019 PMID:31200821][Skoulidis F CancerDiscov2015 PMID:26069186]。KRASだけを見ていても結論が出ない可能性がありそうです。話を戻すと、全体の奏効率としてはKRAS陽性で18.7%、KRAS陰性で14.4%と若干良い傾向がありました。過去の臨床試験でのKRAS陽性例のメタアナリシスでも同様にKRAS陽性の方が免疫治療に若干良く反応するようです[Huang Q Oncoimmunology2018 PMID:30524878]。しかしこれがKRASのためか、PD-L1が高発現に由来するものなのかははっきりしません。検索しますと過去にPD-L1発現とドライバー変異との関連をメタアナリシスで報告したものがあります[Zhang M SciRep2017 PMID:28860576]。それによると、PD-L1発現とEGFR変異は関係しますが、ALKとKRAS変異は関係がなかったとされています。今回の結果からドライバー変異と言えどもKRASに関しては、免疫療法を考慮すべきという結論になります。昨年記事にしたように、BRAFも一部は免疫チェックポイント阻害薬の効果が期待できるかもしれないので、これと同様に治療の参考にしていきたいと思います。