Tyrosine Kinase Inhibitors for Lung Cancers That Inhibit MATE-1 Can Lead to “False” Decreases in Renal Function.
Chen MF et al.
J Thorac Oncol.2024 Jan;19(1):153-159.
PMID:37748692.
Abs of abs.
チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)は、MATE-1を阻害する。MATE-1が阻害されると、クレアチニンが血清中に残留する。このクレアチニン値の上昇は、真の腎障害がないにもかかわらず、薬剤による腎不全の可能性を高める。われわれは、MATE-1阻害薬(MATEi)を投与された患者を解析し、この現象を包括的に位置付けた。各種MATEi TKI(ブリガチニブ、カボザンチニブ、カプマチニブ、クリゾチニブ、エヌトレクチニブ、ロルラチニブ、プラルセチニブ、セルペルカチニブ、テポチニブ)で治療された患者を腎機能障害の解析対象とした。急性腎障害は、クレアチニン値(Kidney Disease: Improving Global Outcomes criteria)に基づいて、ステージ1(≧1.5×、<2×ベースライン)、ステージ2(≧2×、<3×ベースライン)、ステージ3(>3×ベースライン)に分類した。MATE-1の影響を受けない腎機能マーカーであるシスタチンCのデータがある場合は、それを用いて糸球体濾過量を評価した。863人が認識され、内訳はクリゾチニブ(39%、n=333)、ロルラチニブ(17%、n=144)、カボザンチニブ(10%、n=87)、セルペルカチニブ(10%、n=82)、カプマチニブ(9%、n=77)、ブリガチニブ(6%、n=53)、エヌトレクチニブ(5%、n=45)、テポチニブ(5%、n=41)、プラルセチニブ(0.1%, n=1)であった。Improving Global Outcomesのステージ1、2、3はそれぞれ72%(n=65)、21%(n=19)、7%(n=6)であった。TKI治療中にクレアチニンとシスタチンCの同時測定が可能であった患者は17例あった。ほとんどの症例(17例中15例)では、クレアチニン値よりもシスタチンC値を用いて計算したGFRの方が高かった。クレアチニンでの計算に比べて、シスタチンCでのGFRが10mL/分未満、10~19mL/分、20~29mL/分、30mL/分以上高くなった患者の割合は、それぞれ27%(15例中4例)、20%(15例中3例)、20%(15例中3例)、33%(15例中5例)であった。3人の患者の3年間にわたる長期データでは、すべての時点の96%(51人中49人)で、シスタチンCを用いた方がクレアチニンを用いた場合よりもGFRが高かった。仮定として臨床試験のGFRをカットオフ値40mL/minとすると、クレアチニンでの計算では41%(17例中7例)であった適格患者の割合が、シスタチンC計算では71%(17例中12例)に上昇した。MATEi阻害TKIを使用している患者では、計算上のGFRはシスタチンCを使用するとほぼ全例で上昇していた。このような患者で血清クレアチニン値が上昇している場合、腎障害の他の病因を検索し、TKIを減量または中止する前に、シスタチンCを用いてGFRを再計算することを推奨する。
感想
腎機能評価は一貫してクレアチニンとCock-Croft式によるGFR推定量が用いられてきました。クレアチニン値を使うのは、それが糸球体で濾過され、尿細管による排泄も再吸収も受けないから、と習いました。しかし実際には尿細管に薬物排泄トランスポーターが存在し、クレアチニンの排泄の一部を担っています。今回出てくるMATE-1(multidrug and toxin extrusion 1)もその一つです。糸球体濾過以外に1-2割は、薬物排泄トランスポーターによるクレアチニン排泄がなされているようです。つまり糸球体濾過量が減らなくとも、薬剤によりトランスポーターが阻害されるとクレアチニンの排泄が低下し、見かけ上クレアチニン値は上昇するということになります。代替のシスタチンCはトランスポーターの影響を受けないことから、より正確にGFRを反映すると予想されます。MATE-1を阻害するものとして今回挙げたTKIがあり、今回の検討では、予想通りほとんどの症例でクレアチニン値計算でのGFRの低下が認められました。
この論文の主旨を理解した上で敢えて言うと、あくまでもGFRを見たい場合は、シスタチンCの方が有用であると思います。しかし私達の求めるものは臨床アウトカムです。シスタチンCにより評価し減量しない場合、毒性やPFS、OSにどう影響するのでしょうか。臨床試験登録に影響するとしても、実地の治療選択にどれくらい影響するのでしょうか。そこがうまく見えてこないと慣れ親しんだクレアチニンによる評価を変えられないと思います。むしろ糸球体濾過に加えてトランスポーターからの毒物排泄も、「総合腎機能」とするならば、クレアチニンの方が臨床指標として有用であり続けるかも知れません。