TKIに化学療法を途中挿入、OSは変わらないが良い面もあるかも知れない

Randomized Phase Ⅲ Study of EGFR Tyrosine Kinase Inhibitor and Intercalated Platinum-Doublet Chemotherapy for Non-Small Cell Lung Cancer Harboring EGFR Mutation.

Kanda S et al.
Clin Cancer Res. 2025 Jun 13;31(12):2317-2326.
PMID:40162917

Abs of abs,
本研究は、EGFR遺伝子変異陽性非扁平上皮非小細胞肺癌の初回治療としてのEGFR-TKI(ゲフィチニブ/オシメルチニブ)の単剤療法と比較して、EGFR-TKIにシスプラチンとペメトレキセドを途中挿入した場合のOSの優越性を確認することを目的とした。オープンラベル、多施設共同、ランダム化第Ⅲ相試験として行われた。化学療法未治療の進行再発EGFR遺伝子変異陽性非扁平上皮非小細胞肺癌(19Del/L858R)を、1:1の割合でEGFR-TKI単剤療法群またはEGFR-TKIと化学療法を途中挿入する群にランダムに割り当てた。主要評価項目はOSであり、副次評価項目としてPFSとした。2015年12月から2020年10月までに、501例の患者がランダム化された。EGFR‐TKIは2018年10月にゲフィチニブからオシメルチニブに変更された(ゲフィチニブ群:n=308、オシメルチニブ群:n=193)。EGFR-TKIと途中挿入化学療法群では生存利益は認められず、両群の中央生存期間は48.0ヶ月であった(ハザード比0.985[0.796-1.219];片側P=0.4496)。EGFR-TKI単剤療法群の中央値PFSは12.0ヶ月、EGFR TKIと途中挿入化学療法群では18.0ヶ月であった(ハザード比0.762[0.628-0.925];片側P=0.003)。ゲフィチニブとオシメルチニブの両コホートにおけるOSとPFSの傾向は、全集団における傾向と同一であった。本研究では、EGFR遺伝子変異陽性非扁平上皮非小細胞肺癌に対する初回治療として、EGFR-TKI奏効後にシスプラチン+ペメトレキセドを途中挿入することで単剤療法よりPFSは改善されたが、OSは改善されなかった。

感想
JCOG1404/WJOG8214L試験の結果です。まずTKIで感受性のある細胞を根絶し、相対的に多くなったTKI耐性クローンを少ないうちに抗がん剤で根絶やしにすればOSが伸びそうと考え計画された試験です。ゲフィチニブと同時併用の結果がすでに出ていましたが毒性が問題で、途中挿入の形にすれば幅広く使えるのも利点です。現在はFLAURA2により抗がん剤との第三世代TKIとの同時併用が勝ることがわかっていますが、難しい人も多いわけです。この試験が出るまでは、プラチナ2剤を入れ忘れないようにすることが強調された時期もありました。70台後半の人がTKIを開始し、5年経ったらプラチナが入れられない年齢になっていることもあり得るわけです。であればTKIで少し落ち着いたところでプラチナ2剤を途中挿入するというのは非常に魅力的になります。しかし今回の結果はOSが2群で重なり、サブグループ解析でもあまり良さそうな点はなく残念な結果でした。脳転移ありではむしろ途中挿入の方が悪くTKI依存性を示唆します。悪かった理由としては、抗がん剤挿入前のTKIが8週と規定したが短かったかも知れないこと、その後2週の休薬期間を置いたこと、化学療法がシスプラチン+ペメトレキセドで良かったかどうかということが挙げられています。今後耐性機序などの追加解析も予定されているとのことで、もし特定のターゲットとなる変異が多く出るような形であれば途中挿入の意義も再評価されるかも知れません。
これは私の本当に感想ですが、医療経済的にはどうなのでしょうか。同じ全生存期間でも、比較的高いTKIの期間を短縮し、安い抗がん剤で置き換えられるとしたらどうなるのでしょうか。これが同じ内服であるCBDCA+S1であったらどれくらいコスト削減になるのでしょうか?QOL的若干悪いでしょうが、大差がつくとも思えません。薬価ベースですが、CBDCA 600mg(後発品で10000円くらい)、エスワン(120㎎/日 同720円)で3w回しで3コースしても8万円程度なわけです。一方オシメルチニブは80㎎が18540円で70日ほど節約できたとすると100万以上の節約になるわけです。CBDCA+PEMでも薬価は20万程度で大幅な節約は間違いないです。今後オシメルチニブの後発薬が出て薬価も下がるのは確実でしょう。医療費高騰の中、生存転帰同等と思われるローコストの代替治療は世界的に大きな研究課題です。製薬企業にそれを推進する動機はありません。この研究ができるのは医師だけです。その意味で優越性の証明に失敗したがほぼ同じ効果と見られる安い治療は、後々大きく見直される時期が来るかもしれません。