がんの悪化だけ?鑑別診断の重要性

A 49-Year-Old Man with Hypokalemia and Paranoia.

Vokoun CW et al.
N Engl J Med. 2023 Jan 12;388(2):165-175.
PMID:36630625.

Abs. of case
症例は半年前に小細胞肺癌と診断された49歳男性である。患者は画像診断の最中に中断し、代替療法を受けていた。今回は低カリウム血症と精神異常を起こしたため緊急入院した。既往歴として12歳の時に非ホジキンリンパ腫で放射線療法と脾臓摘出を受けており、1年前に深部静脈血栓症に対して抗凝固療法を受けている。今回は入院の10日前から両足の浮腫があり、1日前から精神不安定になり、攻撃性、不眠が見られた。身体診察では全身の筋力低下があり、皮膚は日焼けしているように見えるが黄疸はなく、白血球増多、血中カリウムは2.2であった。画像診断では左上葉に腫瘍、両側縦隔リンパ節腫脹、多発肝転移が見られた。

感想
NEJM恒例のケースカンファレンスです。時々呼吸器領域の疾患も取り上げられており、オチが読めるケースもありますが、臨床力の高さを感じさせる結論が多く非常に勉強になります。今回も私でしたら癌の悪化で片付けてしまいそうです。事実そうではあるのですが、病態の考察が素晴らしいです。以下いわゆるネタバレを含みますので、時間があればまず本文を読んで考えてみてほしいです。
鑑別診断として、まず薬物、代謝障害、原発性の精神疾患、中枢神経障害、代替治療の影響、腫瘍随伴症候群を挙げます。一つ一つ鑑別点を述べた上で「ACTH異所性分泌によるクッシング症候群」と結論します。重要なポイントは、クッシング症候群における静脈血栓症のリスクは一般の18倍であること、クッシング症候群は肥満を呈するが悪性腫瘍によるものの場合、体重減少を呈することもあること、神経症状を呈することがあり、筋力低下、色素沈着も見られることで症状をうまく説明できます。上のケース要約で、よりわかりやすくなったかもしれません。治療としてはステロイド合成阻害薬が投与され精神障害が改善し、今後について家族と話し合う時間が持てたことが示されています。小細胞肺癌に伴う様々な腫瘍随伴症候群が起こることはよく知られていますが、絶望的な状況でも抗がん剤以外で改善する病態があることを再認識させられたケースレポートでした。