免疫微小環境は高齢者で変わるのか

Tumor Immunophenotypic Correlates in Patients Aged 80 Years or Older With Non-Small Cell Lung Cancer and Outcomes to First-Line Pembrolizumab in PD-L1 High (≥50%) Patients.

Barrichello APC et al.
Clin Lung Cancer. 2025 Jun;26(4):288-298.
PMID:40021433.

Abs of abs.
80歳以上の非小細胞肺癌患者は、臨床試験において十分に評価されていない。今回は進行非小細胞肺癌、PD-L1=50%以上、80歳以上の患者において、初回治療としてのペムブロリズマブと年齢と免疫表現型、あるいは年齢と転帰との関連を検討した。3つのコホートを後ろ向き解析し、年齢(80歳未満と80歳以上)がペムブロリズマブの有効性と腫瘍微小環境に及ぼす影響を評価した。コホートAは、PD-L1が50%以上で初回治療としてペムブロリズマブを受けた患者である。コホートBは、多重免疫蛍光法(ImmunoPROFILE)を用いて腫瘍プロファイリングを行った患者である。 コホートCは、遺伝子発現解析のためにThe Cancer Genome Atlas(TCGA)およびStand Up to Cancer(SU2C)データベースを用いた。コホートA(N=669)では、80歳以上の高齢者(N=111)は若年者(N=558)と比較して奏効率(80歳未満で43%、80歳以上で43.9%、 P=0.92)や無増悪生存期間中央値(80歳未満で7.3か月、80歳以上で6.4か月、ハザード比0.87 [0.68-1.11]、P=0.26)に有意差は認められなかった。しかし生存期間中央値(24.8か月 vs. 15.0か月、ハザード比0.71 [0.64-0.84]、 P=0.01)は短く、進行後の2次治療が少なかった(48.4% vs. 23.3%、 P<0.001)。コホートB(N=567)では、高齢者(N=45)の腫瘍は、80歳未満の患者(N=522)と比較して、腫瘍内FOXP3+ T細胞が多く、PD-1+免疫細胞が腫瘍細胞に近接していた。コホートCでは、高齢者検体において、特異的免疫細胞サブセットの上昇と免疫チェックポイントタンパクの発現上昇を伴う明確な免疫表現型が明らかになった。80歳以上のPD-L1高発現患者では、腫瘍微小環境において明確な免疫表現型を示し、ペムブロリズマブに対して若年者と同等の奏効率およびPFSを示した。2次治療が入りにくく生存期間は短くなっていた。

感想
高齢者と若年者では同じPD-L1高発現で免疫環境的にどう違うのか?にフォーカスした研究です。資金と労力があれば誰しも調べてみたいと思うでしょう。しかしいろいろ調べたが結局よくわからずに終わった印象が強いです。おそらくもっとIFの高いジャーナルを目指し、資金もかなり費やされたものと思われます。
さて重要な結果として、腺癌高齢者では腫瘍内および全体のFOXP3+制御性T細胞( Treg)が有意に多く、一方でCD8+、PD-1+免疫細胞、二重陽性PD-1+ CD8+ T細胞は差が認められませんでした。しかし扁平上皮癌ではこの結果は再現されません。空間マッピングでは、PD-1陽性免疫細胞が腫瘍に近いこともわかりました。通常Tregの増加は、免疫療法が効きにくいことと関連していますが、今回は違いました。この理由をTregの異質性と腫瘍細胞との近接性に求めています。トランスクリプトーム解析ではPDCD1LG2、TIGIT、TIM-3 、 JAK2の遺伝子発現と年齢に弱い正相関が見られました。また細胞接着プロセスに関与する経路が、80歳以上で明らかに低下していました。あれこれ説明をつけようとしたものの、結局免疫療法の効果については単一の因子の存在や活性化では説明仕切れません。多彩な免疫環境にかかわる因子が複雑に絡み合って形成されていることが改めてわかった、ということです。この研究が大事なのは、今後新たな知見が出てきたときにその片鱗がここに出ているのかどうかを確認するためにあるということです。
これまでの研究でペムブロリズマブについてはPD-L1発現、TMB、NLRなどはある程度頼りになるものの、すべては説明仕切れません。つまり結果は全くランダムではないものの、決定打は一つではないということです。禅問答的ではありますが、「わからないことがわかった」ということでもあります。