実験系の結果が臨床で確認できない~ドセタキセル+TKI治療

Randomized phase Ⅲ study of docetaxel versus docetaxel plus intercalated erlotinib in patients with relapsed non-squamous non-small cell lung carcinoma.

Steendam CMJ et al.
Lung Cancer. 2021 Oct;160:44-49.
PMID:34403911.

Abs of abs.
前臨床データおよび第Ⅱ相試験では、ドセタキセルに加え、間欠的エルロチニブ療法により効果が増強されることが示されている。NVALT-18試験は、再発転移性非扁平上皮(NSQ)非小細胞肺癌(NSCLC)を対象に、ドセタキセルとそれにエルロチニブ間欠投与法加えることを比較した第Ⅲ相試験である。EGFR遺伝子変異陰性NSQ-NSCLC患者を、ドセタキセル75mg/m2を21日毎投与する群(対照群)と、ドセタキセル75mg/m2を21日毎に加え、エルロチニブ150mg/日を21日ごとに2-16日目に経口投与する群(試験群)に1:1で割り付けた。主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)とし、奏効期間、全生存期間(OS)、毒性を副次評価項目とした。2016年10月から2018年4月に45人が割り付けされ、対照群(N=23)または試験群(N=22)で治療されたが、登録が進まないため試験中止となった。PFS中央値は4.0カ月[1.5-7.1]対1.9カ月[1.4-3.5]、p=0.01、ハザード比2.51[1.16-5.43]であった。OS中央値は、10.6カ月[7.0-8.6]対4.7カ月[3.2-8.6]、p=0.004、ハザード比3.67[1.46-9.27]であった。グレード3以上の毒性は対照群でN=6(26%)、実験群ではN=17(77%)に認められた(p<0.001)。症状は胃腸症状と白血球減少であった。今回の研究から、ドセタキセルに加えエルロチニブ間欠投与は有害であり、更に実地で検討することは全く推奨されない。

感想
その昔EGFR野生型に対してもエルロチニブの効果が少しあるとされていた時代がありました。殺細胞性抗がん剤とTKIの細胞周期に注目した治療タイミングの検討が行われ、抗がん剤と重ならないタイミングでのTKI挿入が考えられました。今回の検討は「vitroでの理屈は正しくとも、治療が有害となりうる」ことがわかるよい教材になると思います。勝手なコンビネーションは許されない時代になりましたが、それでもエビデンスの無いbeyond投与や、治療スケジュール、用量調節はよく行われています。ドセタキセル+エルロチニブはいくつか臨床試験も行われいますが、有望そうに見える結果ではEGFR遺伝子変異不明例が多く、厳密に野生型のみではpositive dataはありません。逆にEGFR遺伝子変異陽性例ではどうかとの疑問もわきます。完全に同じではないですが、ゲフィチニブにひきつづき抗がん剤を上乗せしたIMPRESS試験[Soria JC LancetOncol2015 PMID:26159065]でもPFSハザード比0.86[0.65–1.13]、p=0.27と有意差は出ず、OSはむしろ悪そうとの結果でした。今となっては見る目もないですが、実験系などで理屈にあっているとしても、結果の外挿はよくよく慎まねばならないということを感じました。