扁平上皮肺癌の病理形態学的な予後予測

Tumour cell budding and spread through air spaces in squamous cell carcinoma of the lung – Determination and validation of optimal prognostic cut-offs.

Stögbauer F et al.
LungCancer. 2022 May 2;169:1-12.
PMID:35567921.

Abs of abs.
肺扁平上皮癌(SCC-L)患者の予後層別化が試みられている。今回はSCC-Lの予後予測因子となりうるいくつかの病理所見パラメータ(腫瘍細胞簇出(TCB)、気腔内進展(STAS)、腫瘍間質比、免疫細胞浸潤)を検討した。最適なカットオフ値決定し、予後判定力を評価した。さらに、予後判定に重要なパターンであるTCBとSTASについては評価者間での差(IOV)を評価した。Cancer Genome Atlas(TCGA)コホートは、335人のSCC-L患者で構成されている。病理形態学的パラメータは、TCB、細胞巣の最小サイズ(MCNS)、STAS、間質密度、免疫細胞浸潤を分析した。最も有意なカットオフ値を決定し、単変量および多変量解析で生存アウトカムを推定した。カットオフ値は、独立したSCC-Lコホート(n=346)で検証した。2名のエキスパート病理医が検証コホートのIOVを調査した。TCGAコホートでは、TCB、STAS、免疫細胞浸潤が有意な予後予測因子として同定された。TCBが多い腫瘍、STAS巣の数が多い、肺胞内のSTASの距離に対してSTASの広がり方、免疫細胞浸潤が少ないことは、全生存の多変量Cox比例ハザード解析において独立した因子として残った。TCB、STAS巣の数、肺胞内のSTASの距離のOSに対する有意性は、検証コホートで検証することができた。IOVは予後予測パラメータについてκ≥0.89であった。TCBとSTAS(STAS巣数、STAS肺胞内距離)は、SCC-L患者の独立した予後因子であり、互いに相関がないことが確認された。これは別の独立したコホートでも確認された。IOVは予後予測パラメータに対してほぼ完全であった。SCC-Lにおける予後の形態学的分類因子として、TCBおよびSTASに基づく段階評価を提案したい。

感想
扁平上皮癌についての病理形態学的な予後因子を探ろうとする試みです。この分野は日本からの貢献も多くいくつかは本文でいくつか引用されています。多いのは腫瘍細胞簇出(そうしゅつ)で、これは癌細胞が小胞巣を形成し間質内に散在性に浸潤してくる現象を指します。大腸癌では重要な予後因子とされ数多くの報告があります。その次に組織へのリンパ球浸潤の程度があり今回は既報も参照し、大規模かつ別コホートでの検証にも耐えたということで本誌に掲載されたのだと思います。現在これに加えてPD-L1発現や遺伝子変異との相関、特にICI使用により予後が変化しているかなどが知りたいところです。特に扁平上皮癌では稀に気道内播種が見られますが、これは簇出のなれの果てなのでしょうか? その昔自分で取った気管支鏡検体をすべて組織を見ていた頃を思い出しました。いつからかしなくなり、ドライバー変異中心の話題が多い現在ですが顕微鏡を覗き、組織との地道な対話がまだまだ必要でしょう。