抗生物質投与と免疫療法

Association between antibiotic-immunotherapy exposure ratio and outcome in metastatic non small cell lung cancer.

Galli G et al.
Lung Cancer. 2019 Jun;132:72-78.
PMID: 31097097

Abs of abs.
転移性非小細胞肺癌(NSCLC)に対して免疫療法(IO)が有効である。腸内細菌叢は免疫系に影響を及ぼしており、抗生物質によるこの不均衡がIOの有効性を損なう可能性がある。そこで今回はIOで治療されたNSCLC患者集団で調査を行った。2013年から2018年の間にIOで治療されたすべてのNSCLC患者のデータを収集した。患者は、IO治療期間中の初期(治療前1ヵ月から開始後3カ月以内)に抗生物質を使用すること(EIOP)、または全IO期間中の「抗生物質の日数/IOの日数」と定義した抗生物質-免疫療法曝露比率(AIER)で層別し解析した。157人の患者が対象となり、46人がWIOP中に抗生物質を受け、EIOP中に27人が抗生物質の投与を受けていた。EIOP中の抗生物質の使用による差は、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)のいずれでも見られなかった(p=0.1772、およびp=0.2492)。WIOPを考慮すると、AIER中央値は4.2%であり、AIERが高い患者でPFS(p<0.0001)およびOS(p=0.0004)が短縮していた。IOの治療ライン(PFSではp=0.0018)およびPSでの補正後も結果は有意であった(PFSでp<0.0001、OSでp=0.0052)。本研究から、EIOPで抗生物質を使用しても転帰に差は見られなかった。しかしWIOPでAIERが高い患者への有害な影響が明らかとなった。その関連性が確認されれば、AIERはIOの有効性に対する新たな指標になる可能性がある。

感想
抗生物質により腸内細菌叢が変化し、免疫系に影響を及ぼすことが報告されています。この腸内細菌叢は他疾患でも注目され特に難治性腸疾患で研究が進んでいるようです。腸内細菌はトリプトファン代謝と関連していると考えられ、そこをターゲットにしたIDO阻害薬が当初良い結果[Mitchell TC JCO2018 PMID:30265610]であったため非常に期待されました。しかしその後メラノーマに対するペムブロリズマブ+エパカドスタットの第Ⅲ相試験(Keynote-252/ECHO-301)でPFSに差がなく失敗に終わっています。今回は抗生物質を免疫療法中に併用した場合、アウトカムが変わるかという研究です。使用された抗生物質は、レボフロキサシン、アモキシリン・クラブラン酸、クラリスロマイシン、セフトリアキソン、リファキシミン、シプロフロキサシン、アジスロマイシンとなっています。使用理由はほぼ肺感染症によるものでした。普通に考えれば、抗生物質を使用しているということは感染があるということと強く交絡しており、その違いをうまく説明できなければ因果関係を主張するのに無理があります。免疫治療は初回が15.9%、2次治療が42%で、ほとんどがPD-1/PD-L1単剤での投与でした。治療初期に抗生物質の併用があったかどうかで分けたPFS、OSはいずれも差が見られなかった、と書かれています。実際の生存曲線を見ると、使用例の方が下を行っています。したがって今回の検討からは結論めいたことは言えず、単なる検出力不足の可能性があります。さらに抗生物質の暴露比率(AIER)の中央値で2分割し、より暴露比率が高い方がPFS、OSとも不良であったという主張をしています。これは暴露比率が少ない人と抗生物質投与をしていない人を一緒にしており、結論をミスリードする可能性があります。つまり文章上は「抗生剤使用期間が少なければ影響は少ない」と捉えられる可能性があります。そしてこのAIERでさらに解析を進め、PFS、OSとも高低間で有意であったと結論しています。多変量因子として、PS(0かそれ以外で2値化)とAIERを採用し調整しています。PSのハザード比はPFSの多変量解析で1.86、OSで0.405と逆の結果になっており理解に苦しみます。AIERはPFSでハザード比1.053、OSで1.059と有意とされていますが、点推定値で限りなく1に近く、実臨床で意味がある数字とは思えません。あれこれ批評しましたが、結局抗生物質を使用しているということは、感染を合併あるいは合併しやすい要因があるわけで、そのような症例に免疫療法はあまり良くないということになります。免疫療法はPD-L1、リンパ球浸潤など腫瘍側の因子の方の研究が多いですが、経験的にも全身状態が良いことが大切であると推察されます。