Edoxaban for the Treatment of Cancer-Associated Venous Thromboembolism.
Raskob GE et al.
N Engl J Med. 2018 Feb 15;378(7):615-624.
PMID: 29231094
Abs of abs.
低分子量ヘパリンは、主要関連の静脈血栓塞栓症の標準治療である。この分野での経口抗凝固剤の果たす役割は不明である。このオープンラベルの非劣性試験では、急性症候性または偶然見つかった静脈血栓塞栓症を有するがん患者に、低分子量ヘパリンを少なくとも5日間、続いて経口エドキサバンを1日1回60mg投与する群(エドキサバン群)またはダルテパリン200IU/kgを1日1回皮下投与を1か月行い、その後1日1回150μlのダルテパリン投与(ダルテパリン群)との間で比較を行った。治療は少なくとも6ヶ月~12ヶ月行われた。プライマリーエンドポイントは、治療期間と関係なくランダム化から12ヶ月間の静脈血栓塞栓症の再発または大きな出血の両方の発生とした。無作為化を受けた1050人の患者のうち、1046人がITT解析された。エドキサバン群の522人中67人(12.8%)ダルテパリン群の524人中71人にイベント発生が見られた(ハザード比0.970[0.70-1.36]; 非劣性P=0.006、優越性P=0.87)。再発静脈血栓塞栓症は、エドキサバン群で41人(7.9%)、ダルテパリン群で59人(11.3%)であった(リスク差、-3.4%[-7.0-0.2])。大きな出血は、エドキサバン群で36人(6.9%)、ダルテパリン群で21人(4.0%)(リスクの差、2.9%[0.1-5.6])に見られた。経口エドキサバンは、再発性静脈血栓塞栓症または大出血の発生といったエンドポイントに関して、ダルテパリン皮下注より劣ることはなかった。静脈血栓塞栓症の再発率は低かったものの、大きな出血はダルテパリンよりもエドキサバンで高かった。
感想
かつてはワルファリン、(未分画)ヘパリンしかなかった抗凝固治療薬ですが、ここ数年でNOAC(非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬)と呼ばれる新規抗凝固薬が出現し、内服している患者さんが多くなってきました。この薬の利点は食事制限やモニタリングが不要で効果発現が速く、検査等に要する休薬期間が短いことに由来すると思われます。ただ良いことばかりではなく消化管出血が多いことは注意すべき点ではあります。一方担癌状態での深部静脈血栓症が最近注目されており、その気になって調べると多い印象です。これには、血管新生阻害薬の普及もあるでしょう。発見できるかどうかは、Dダイマーなどの測定頻度と、軽度の呼吸状態の変化で鑑別診断に挙げ、造影CT、下肢静脈エコーをオーダーするかどうかに大きく依存していると思われます。肺癌治療時に難しいのは血痰が出ている時で、血栓にだけ都合よく抗凝固薬を効かせることができないため時にジレンマに陥ります。
今回は静脈血栓を有する患者に標準治療である低分子ヘパリンと、エドキサバンを比較した試験です。悪性腫瘍が広く対象であり、肺癌はほぼ均等に14%程度両群に割り当てられています。このエドキサバン群でも、最初の数日は低分子ヘパリンによる治療が行われた上でのデータであることに注意が必要です。結果はFig2に集約されています。血栓再発か出血をエンドポイントとした場合(つまり意味は異なるが治療失敗をイベントと設定)、両群とも13%程度にイベントが発生、ハザード比は0.97とほぼ同等でした。これだけ見ると非劣勢がうまく証明されているように見えます。しかしFig3を見ると血栓再発という点ではあきらかにエドキサバンが上回り(7.9%対11.3%)、出血という点では逆にダルテパリンが少なく(6.9%対4.0%)安全に見え、両者を足し合わせると同等という結論になっています。経口薬と注射薬では大きくアドヒアランスが異なり、治療期間もダルテパリンの方が短く、また治療中止理由として患者の自由意志によると思われる「患者決定」での中止が、エドキサバンが4%対ダルテパリンが14.9%と大きく差が開いています。手間をどこまで許容するのか、血栓予防を取るか、出血を許容するか、これらの事象にはさまざまな議論がができると思います。日本では低分子ヘパリンは保険診療上つかいにくく、静注用のダルテパリンが主にDICの時に、エノキサパリンが整形、腹部外科手術時の静脈血栓予防にしか使えません。従って、日本では担癌患者における静脈血栓塞栓症の治療としてこれらNOACを使用するのが標準治療となります。現在、この種の薬としてエドキサバン以外に、リバーロキサバン、アビキサバンが使用可能となっています。細かい議論はさておき、循環器疾患の古い知識しか持ち合わせていない私はまずは一剤使い慣れていくことを目指しています。