がん:9つの頭を持つヒドラを退治する

Cancer: slaying the nine-headed Hydra.

Adashek JJ et al.
Ann Oncol. 2023 Jan;34(1):61-69.
PMID:35931318.

Abs
現代医学は進歩が続いており、多様な疾患に対する治療選択肢は、多岐の医療分野にまたがって個別化が進んでいる。以前は致命的であった感染症も、病原体を特定し、適切な薬剤を組み合わせることで感染を完全に消し去り、耐性菌の出現を防ぐことで治癒率は100%に近くなっている。同様に、現代の腫瘍学の道具として、次世代シークエンサーや免疫学的解析により、それぞれの腫瘍に合わせた治療が可能になっている。分子レベルの研究により、転移巣はそれぞれ異なり、複雑であることが明らかになったことが重要である。したがって、がんを根治するために合理的な個別化薬剤の組み合わせが必要であり、クローン進化や耐性化を軽減することが必要である。

感想
意欲的な総説です。分子生物学的に癌を複数のクローンの混合体と考え、初期からできるだけ組み合わせて治療した方がよいのではないかと主張しています。結核、HIVの例を挙げるまでもなく昔からその考え方はありました。古くは小細胞肺癌に対する交替療法、ドセタキセルによる早期2次治療が試されていましたがうまく行きませんでした。今回はそれをmixed responseする症例から考察しています。癌を多くの頭を持つギリシャ神話の怪物ヒドラになぞらえ、一つの頭を退治しても2つの頭が生えてくるので、たくさんの頭を同時に退治する必要性を導いています。分子標的治療や免疫療法が出てきたことによりこの事象を再考する必要があり、いくつかそれを支持するデータもでています。確かに免疫複合療法や抗がん剤+分子標的治療の組み合わせは、その方向とも言えます。問題は毒性であり、元のレジメンの再投与の有望性も述べています。確かに臨床試験では実証されていませんが、EGFR-TKIは再投与を良くしますし、小細胞肺癌では初回レジメンの再利用もよくするかと思います。この意味ですでに実地臨床ではされていることかもしれません。病態解明にはリキッドバイオプシーに可能性を求めたいですがすぐには難しいでしょう。エビデンスベースではないですが、奏効機序を考えることによってわずかですが生命予後の改善に結びつく可能性があるかと考えています。