T細胞エンゲ―ジャーは小細胞肺癌治療の新たな選択肢となるか?

Tarlatamab, a First-in-Class DLL3-Targeted Bispecific T-Cell Engager, in Recurrent Small-Cell Lung Cancer: An Open-Label, Phase I Study.

Paz-Ares L et al.
J Clin Oncol. 2023 Jun 1;41(16):2893-2903.
PMID:36689692

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小細胞肺癌は、治療が限られている悪性度の高い腫瘍である。Delta-like ligand 3(DLL3)はほとんどの小細胞肺癌で異常発現している。二重特異性T細胞誘導(BiTE)抗体であるタルラタマブ(AMG 757)は、DLL3とCD3の両方に結合し、T細胞を介した腫瘍溶解をもたらす。今回はタルラタマブの第I相試験結果を報告する。本試験では再発/治療抵抗性小細胞肺癌を対象にタルラタマブを評価した。主要エンドポイントは安全性であった。副次項目は、修正RECIST 1.1による抗腫瘍活性、生存期間、薬物動態であった。107例の患者が用量探索(0.003~100mg;n=73)および拡大(100mg;n=34)コホートでタルラタマブを投与された。前治療歴の中央値は2(1~6)であり、49.5%が抗PD-L1療法を受けていた。グレードを問わない治療関連有害事象は97例(90.7%)に認められ、グレードb%3は33例(30.8%)に認められた。1人(1%)にグレード5の肺臓炎がみられた。サイトカイン放出症候群は最も一般的な治療関連有害事象で、56例(52%)に発現し、うち1例(1%)にグレード3が認められた。MTDには到達しなかった。奏効率は23.4%[15.7-32.5]で、CRが2例、PRが23例であった。奏効期間中央値は12.3ヵ月[6.6-14.9]であった。病勢コントロール率は51.4%[41.5-61.2]であった。無増悪生存期間および全生存期間の中央値は、それぞれ3.7ヵ月[2.1-5.4]および13.2ヵ月[10.5~未達]であった。探索的解析から、DLL3の高発現と臨床利益との関連が示唆された。多数の前治療歴のある小細胞肺癌において、タルラタマブは管理可能な安全性と有望な奏効持続性を示した。この有望な治療薬の次の評価が進行中である。

感想
腫瘍特異的に表面抗原を認識する抗体にうまく抗がん剤を引っ付けた薬物(ADC)はいくつが実用化されています。直近ではトラスツズマブ・デルクステカンですが、これはHER2を認識して細胞特異的に抗がん剤を効かせるという理屈になります。一方で癌とT細胞を近接させ免疫学的に細胞崩壊を起こそうとするアイデアがあります。これを仲介するものがT細胞エンゲ―ジャー(TCE)と呼ばれ、今回のタルラタマブがこれに相当します。TCEは先にCD19を標的とするブリナツモマブが難治性白血病で実用化されています。
ADCにしろTCEにしろ、取り付く場所としての抗原が必要となります。小細胞肺癌においては表面抗原としてDLL3が発現していることが多いため、これをターゲットに開発が進められました。まずはADCとしてのRova-T(ロバルピツズマブ テシリン)の開発が進み、DLL3高発現を対象とした2次治療でのRovaT対トポテカンの第Ⅲ相試験が行われました[Blackhall F JTO2020 PMID: 33607312]。しかし途中中止になりOSの延長が示せませんでした。今回のタルラタマブは第Ⅰ相試験ではあるものの奏効率が23.4%でCR例も含まれ期待できそうです。再発小細胞肺癌であり治療手段がきわめて限られるところで、今後の結果がうまくいけば広く使われる可能性があります。気がかりはRova-Tも第Ⅰ相試験では奏効率31%であり、少数例の試験で時に結果が上振れて出てしまうという点です。すでに第Ⅱ相試験が行われているとのことなので結果を待ちたいと思います。この薬の主な有害事象であるサイトカイン放出症候群に対しては、最近トシリズマブ(アクテムラ)が適応追加になっています。もしタルラタマブが認可された際にはこのことも心強いと思います。