ゲノム医療の恩恵を受けられるのはまだまだ少ない

Estimation of the Percentage of US Patients With Cancer Who Benefit From Genome-Driven Oncology.

Marquart J et al.
JAMA Oncol. 2018 Aug 1;4(8):1093-1098.
PMID: 29710180

Abs of abs.
これまでゲノム解析に基づいた治療について定量化が行われて来なかった。今回は2006年から2018年にかけてFDAが認可したゲノム医療の対象となり、その恩恵を受けた可能性のある進行癌または転移癌を有する患者の年率を推定した。これまでの公表されたデータを用いての後ろ向き横断研究とした。公表されたデータについては (1)進行癌または転移癌患者の人口動態(2)2006年1月から2018年1月までに承認された抗がん剤に関するFDAデータ(3)薬物の奏効および持続時間 (4)期間中に患者の何%がゲノム医療から恩恵を受けられたかを推定、これには種々のゲノム異常の頻度を推定する公開論文を使用した。標的となるゲノム変異を持ち、ゲノム医療を受けることができたであろう米国在住患者の年率、その際の奏効率と奏効期間を推定した。2006年1月1日から2018年1月31日まで、FDA認可を受けた38の標的ゲノムと31のゲノム医療が基準に合致した。2006年時点でのゲノム医療対象者は転移性癌患者564830人中28729人、5.09%[5.03-5.14]であった。2018年には609640人中の50811人、8.33%[8.26-8.40]に増加した。2006年時点でのゲノム情報に基づく治療は、564830人中59301人、10.50% [10.42-10.58]であり、2018年には609640人中50811人、8.33%[8.26-8.40]まで増加した。2018年にゲノム情報に基づく治療は、609640人中94157人、15.44%[15.35-15.53]の転移癌患者に提供される可能性がある。2006年にゲノム標的治療の恩恵を受けると推定される癌患者の割合は、0.70%[0.68%-0.72]であったが、2018年には4.90%[4.85-4.95]に増加していた。2006年のゲノム情報を基にした治療は1.31%[1.28%-1.34]となり、2018年には6.62%[6.56-6.68]に増加した。2018年1月までのゲノム情報からの薬の奏効率の中央値は54%であり、奏効期間の中央値は29.5ヶ月であった。ゲノム治療の対象となる患者数は時間とともに増加しており、これらの薬物は進行癌のうち少数の患者を助けてきた。プレシジョンオンコロジーの進歩を加速させるためには、ゲノム医療の新規試験デザインを開発し、免疫療法や殺細胞薬治療を含む幅広い開発形式を追求すべきである。

感想
ゲノム医療が来年から本格化します。これまで遺伝子変異を個別に測っていましたが、パネルで一括化して測れるようになるようです。そのような最先端の医療はがん診療拠点病院を中心に今後も進んでいくのでしょう。一方でそのような対象が米国でこの10年あまりでどれほど増えたのかというのが今回の主題です。Fig1に示されていますが、対象となるのは進行癌全体で見た場合8%程度、実際に利益が得られる人は5%あまりと意外に低いという結論です。でも肺癌では結構いるのではないかというのが私の感触ですが、このずれは対象と利益を受けている人の大部分が肺癌であるからです。つまり全体としてはまだまだだが、肺癌に関してはまあ増加と言えるということです。この増加の仕方についてですが、eFig2を見ると全体のゲノム医療の対象者は年0.5%づつ増加しています。次世代シークエンサーの発達にもかかわらず、この増え方は加速しておらず治療について幅広く考えていく必要性があることが結論において強調されています。つまり治療薬がない遺伝子変異だけが多く見つかる現状からもう一歩進まなくてはということでしょう。ALK陽性に対するペメトレキセドの効果のように、特定の遺伝子変異に対する既存の殺細胞性抗がん剤もまだ検討の余地があるかもしれません。この辺りはいわゆるビッグデータを集めないと見えてこないでしょう。