トラスツズマブ・デルクステカンは減量でもなお肺臓炎の発症率が高い

Trastuzumab Deruxtecan in Patients With HER2-Mutant Metastatic Non-Small-Cell Lung Cancer: Primary Results From the Randomized, PhaseⅡDESTINY-Lung02 Trial.

Goto K et al.
J Clin Oncol. 2023 Sep 11:
PMID:37694347.

Abs of abs.
トラスツズマブ・デルクステカン(T-DXd)5.4mg/kgおよび6.4mg/kgは、複数種類の癌において強力な抗腫瘍活性を示した。T-DXd 5.4mg/kgでの前治療歴のあるHER2変異陽性(HER2m;1塩基変異およびエクソン20挿入変異と定義)非小細胞肺癌への効果はよくわかっていない。DESTINY-Lung02試験は盲検化多施設共同第Ⅱ相試験であり、HER2変異陽性の前治療歴のある患者(プラチナ製剤を含む治療歴あり)において初めてT-DXd 5.4mg/kgを3週に1回投与する試験が行われた。さらにこの集団においてT-DXd 6.4mg/kgを3週に1回投与する試験が行われた。主要評価項目は奏効率で、中央判定により確認した。152人がT-DXd 5.4または6.4mg/kgを3週に1回投与する群に2:1で無作為に割り付けられた。追跡期間中央値は5.4mg/kg群で11.5ヵ月(1.1~20.6)、6.4mg/kg群で11.8ヵ月(0.6~21.0)であった。奏効率は5.4mg/kg群で49.0%[39.0~59.1]、6.4mg/kg群で56.0%[41.3~70.0]、奏効期間中央値は5.4mg/kg群で16.8ヵ月[6.4~NE]、6.4mg/kg群でNE[8.3~NE]であった。治療期間中央値は、5.4mg/kg投与群で7.7ヵ月(0.7~20.8)、6.4mg/kg投与群で8.3ヵ月(0.7~20.3)であった。グレード3以上の有害事象は、5.4mg/kg投与群で101例中39例(38.6%)、6.4mg/kg投与群で50例中29例(58.0%)に見られた。5.4mg/kg投与群および6.4mg/kg投与群では、それぞれ101例中13例(12.9%)および50例中14例(28.0%)に薬剤性間質性肺炎が見られた(各群ともグレード3以上が2.0%)。T-DXdは両用量で臨床的に意味のある反応を示した。安全性プロファイルは許容範囲であり、管理可能であり、T-DXd 5.4mg/kgが良さそうであった。

感想
つい先ごろ承認されたトラスツズマブ・デルクステカン(エンハーツ)の元になったデータです。DESTINY-Lung01試験[Bob TLi NEJM2022 PMID:34534430]は前治療歴のあるHER2変異陽性肺癌91人に対してT-DXd6.4mg/kgで投与した試験です。この01試験では奏効率55%、PFS8.2ヶ月と報告されています。ただ薬剤性肺炎が異常に多く、27.5%に上っており対策が求められました。今回減量で検討し、結果としては28% vs 12.9%と肺臓炎を半減させ、奏効率56% vs 49%と効果は若干下がったが許容ということでした。
肺臓炎のリスク因子候補として挙げられたのは、肺合併症の存在、酸素飽和度低下、中等度以上の腎機能低下、65歳未満、日本で治療を受けていることでした。喫煙や胸部照射歴ははっきりしないようですが、基本的には今までと同じようにリスクと考えた方がよいように思います。薬剤性肺炎について、古くから診療されている医師にはゲフィチニブでの苦い経験があります。その後明らかになったリスクについての論文[Kudoh S AJRCCM2008 PMID:18337594]にすべてが集約されていると思います。エンハーツは乳癌領域で先行して使われています。呼吸器をやっていると他癌治療中の肺臓炎での相談も増えてくることが予想されます。乳腺をやっていて呼吸器専門医のいない施設では、施設間連携を求められます。地域での病院間の連携も大事になってきます。HER2陽性肺癌は1-2%となかなか当たるものではないので、ひょっとすると他科他院の肺臓炎のサポートの方が仕事として多くなるかも知れません。