ドライバー変異とPD-L1発現

PD-L1 expression in lung adenocarcinoma harboring EGFR mutations or ALK rearrangements

Yoneshima Y et al.
Lung Cancer. 2018 Apr;118:36-40.
PMID: 29572000

Abs of abs.
PD-L1発現は、非小細胞肺癌(NSCLC)においてPD-L1阻害薬の臨床結果と関連している。PD-L1 IHC 22C3 pharmDxアッセイはペムブロリズマブの唯一のコンパニオン診断薬であり、NSCLCの30%程度までにおいて強発現することが分かっている。しかし、既知のドライバー変異を有するNSCLCにおけるPD-L1発現の頻度は不明である。80人の肺腺癌患者の腫瘍組織における22C3によるPD-L1発現を測定した。これにはEGFR遺伝子変異陽性71例およびALK融合遺伝子陽性9例を含み、それらの全てが対応するチロシンキナーゼ阻害剤(TKIs)で治療されている。分析された80の腫瘍のうち、26例(32.5%)はTPS=1-49%であり、9例(11.3%)は50%以上のTPSを示した。言い換えれば35例(43.8%)がTPSが1%以上であった。EGFR遺伝子変異陽性例71例に関して、23例(32.4%)がTPS=1%-49%であり7例(9.9%)が50%以上であった。PD-L1?1%と臨床背景との関連は見られなかった。初回TKI治療での無増悪生存期間はTPS?1%はTPS<1%と比較して、有意に短縮していた(P=0.016)。本検討ではEGFR遺伝子変異陽性あるいはALK融合遺伝子陽性の一部の患者は、PD-L1 TPSが50%以上であった。このような患者におけるPD-1/PD-L1阻害薬の有効性を調べるための前向き研究が必要である。

感想
いわゆるドライバー変異がある症例でのPD-L1発現、あるいは免疫チェックポイント阻害薬の効果については少数例での検討が繰り返されてきました。今回はEGFR遺伝子変異陽性例とALK陽性例をまとめてTPSとTKIの効果との関連を見ています。まずTPS=50%以上は11%で、通常の30%程度と比較しやはり頻度が低いようです。TPS=1-49%は32.5%と一般集団とは差があまり見られません。これまで通りドライバー変異を有するものは、全体的にPD-L1発現が低い傾向であるが、相互排他的ではないといわれてきました。今回もそれが確認されています。また喫煙とPD-L1発現も関連が報告されており、今回のTPS=50%以上の9例のうち6例はsmokerでした。TPSと初回のTKIの無増悪生存期間との関連では、TPS<1%対1%以上での比較で、中央値が14ヶ月対9か月となり有意にTPS1%以上が短い結果でした。これを喫煙状況での比較、つまりnever 対 smokerで見ても、ハザード比が1.08とあまり大きな差は見られませんでした。今回の症例で4例がニボルマブあるいはペムブロリズマブで治療されていますが、残念なことに全員PDの結果となっています。したがって従来のPD-L1発現と免疫チェックポイント阻害薬の効果との相関はこの集団では確認できないこととなります。また検体採取のタイミング、あるいは採取から測定までの時間などの細かいデータをもう少し知りたいところです。この集団には、TKI治療によってTPSが変わるのか、またそれにより免疫治療の効果が変わるのかといった臨床課題が山積しています。また初回にTPSが高く、ドライバー変異も共存していた場合、現在はドライバー変異の治療を優先することが多いと想像しますが、本当にそれでよいのかどうか、あるいはドライバー変異がminor mutationであった場合、さらにはRETやHER2など現在はっきりと治療薬が定まっていないものであったら殺細胞性抗がん剤との優先度をどう考えるのか、実地臨床での興味は尽きないところです。