Randomized Phase III Study of Continuation Maintenance Bevacizumab With or Without Pemetrexed in Advanced Nonsquamous Non-Small-Cell Lung Cancer: COMPASS (WJOG5610L).
Seto T et al.
J Clin Oncol. 2019 Dec 27 [Epub ahead of print]
PMID:31880966
Abs of abs.
非小細胞肺癌における維持療法の利益が証明されている。COMPASS試験は、カルボプラチン+ペメトレキセド+ベバシズマブによる導入療法後の維持療法として、ベバシズマブ±ペメトレキセドの有効性と安全性を評価することを目的とした試験である。EGFRエクソン19欠失またはL858R変異の存在が確認されない(注:未確認例も含む)未治療進行非扁平上皮非小細胞肺癌に対して、初回治療としてカルボプラチン(AUC6)、ペメトレキセド(500mg/m2)、ベバシズマブ(15mg/kg)を3週毎4サイクル投与した。導入療法で進行が見られなかった患者について、ペメトレキセド500mg/m2とベバシズマブ15mg/kg、またはベバシズマブ15mg/kgによる維持療法に割り付けた。治療は疾患進行または許容できない毒性が起こるまで継続された。主要評価項目は、ランダム割付け後の全生存期間である。2010年9月から2015年9月までに、907人の患者が導入療法を受けた。このうち599人がランダム化され、298人がペメトレキセド+ベバシズマブ、301人がベバシズマブを投与された。全生存期間中央値は23.3ヶ月 vs. 19.6ヶ月(ハザード比0.87[0.73-1.05];P=0.069)であった。EGFR野生型では、全生存期間ハザード比0.82[0.68-0.99];P=0.020)であった。無増悪生存期間中央値は5.7ヶ月 vs.4.0ヶ月であった(ハザード比0.67[0.57-0.79];P<0.001)。安全性は、治療レジメンの既報告と一致していた。本研究における主要評価項目である全生存期間について、統計学的に有意な利益は観察されなかった。しかし、全集団における無増悪生存期間、およびEGFR野生型における全生存期間は、ベバシズマブ維持療法にペメトレキセドを上乗せすることで延長が見られた。
感想
サンプルサイズはベバシズマブ群13.0ヶ月、ベバシズマブ+ペメトレキセド群が16.5ヶ月、ハザード比0.787と仮定、片側85%の検出力で620人が必要とされました。また導入治療から維持療法へ80%移行できるとし、775人が最初に必要とされ、維持療法への移行が悪かった場合(66%)を考え907例が必要とされました。最終的に解析対象にされたのが599人とパワーが落ちてしまいました。それに加えてベバシズマブ群の全生存期間中央値が19.6ヶ月、試験治療群が23.3ヶ月と、両群で大きく生存期間が伸びていました。これが差を検出できなかった一番大きな原因でしょう。また本来、EGFR遺伝子変異陰性非扁平上皮肺癌を意図した登録となっていました。2010年ころ登録開始された試験なので、今ほど組織検査の重要性も言われておらず細胞診で非小細胞肺癌と診断できれば良しとしていた施設も残っていたような時期と思います。その中でおよそ90%がEGFR遺伝子変異陰性と診断されており、EGFR野生型と証明できた症例に絞って解析し、P<0.05を示し何とか面目を保っています。脳転移も許容され5%の症例が入っています。
後付けで都合のいい結果をとることもできません。本来の主要解析の全生存期間(Fig2A)を見ると1年までと、4年以降が重なっていますが、中ほどではベバシズマブ+ペメトレキセド群が上を言っており明らかに下になる期間はなさそうです。PFSは一貫して上を行っています。サブグループ解析であえて気にするとすれば、70歳以上の集団(n=159)でベバシズマブ単剤の方がよくなっているところです。しかし75歳以上(n=30ですが)で見るとそうでもないことから偶然の可能性が高そうです。毒性ではベバシズマブ+ペメトレキセド群で好中球減少、貧血の割合が高くなります。注意すべきは試験群で治療関連死が起こっている点です。内訳は間質性肺炎2例、肺胞出血1例、肺感染症1例でした。生存に関する有意差はともかく、これらの結果は今まで言われてきた通り、「維持療法含めベバシズマブが上乗せできる人はしても良い」ということが再確認されたと言えます。今回目新しいのは薬剤費についてです。それによると維持療法にかかる薬剤費はざっとベバシズマブ群(投与サイクル中央値4)で192万円、2剤群(同6サイクル)453万円でした。ごく荒っぽく計算すると3.7ヶ月の延命に261万円(12ヶ月換算で846万円)、かつて厚労省は1QALYの目安として延命1年に500万円と試案したことがあります(参照)。それからするといかにも高い抗がん剤ですが、ここは将来の議論かと思います。
さて、このレジメンは今ではすっかり影が薄くなってしまいました。当時の最先端のレジメンであったCBDCA+PEM+BEVがどれくらいのサバイバルを出すのかのデータにもなっています。その結果、EGFR遺伝子変異なし、初回免疫治療なしでも、ベバシズマブに耐えられるのであれば、全生存期間は23.3ヶ月つまり2年が標準になりつつあります。日本人だけではないですがKEYNOTE189でも22ヶ月程度はありますのでドライバー変異のない進行肺癌でも総じて2年を見込める時代になったと言えます。新しい先生はご存じないかもしれませんが、かつてFACS研究[Ohe Y AnnOncol2007 PMID:17079694]という臨床試験がありました。シスプラチン+イリノテカンなど当時の標準治療をまとめて検討した試験ですが、全生存期間は約1年でした。そこからすると隔世の感がありますが、医療費は倍増どころではないはずです。