免疫療法の性差のその後

Association of Patient Sex With Efficacy of Immune Checkpoint Inhibitors and Overall Survival in Advanced Cancers: A Systematic Review and Meta-analysis.

Wallis CJD et al.
JAMA Oncol. 2019 Jan 3. [Epub ahead of print]
PMID:30605213

Abs of abs.
免疫反応には性差があることが知られており、メタアナリシスでは、男性は女性と比較して、進行性固形悪性腫瘍に対する免疫療法の利益が大きいことが示唆されている。しかしながら、方法論上の懸念とその後の試験結果の追加により、これらの結果は疑わしいものとなっている。今回は性別について進行がんの免疫療法の有効性を評価する最新の包括的なメタアナリシスを実行する。2018年10月2日までのMEDLINE(PubMed)、EmbaseおよびScopusで索引された研究(n=23)の系統的レビューを行った。進行性固形悪性腫瘍の治療において免疫療法と標準治療を比較したランダム化臨床試験を対象にし、全生存期間が報告され、性別によって層別化されたデータが得られた場合に研究に含めた。観察研究、エディトリアル、コメンタリー、総説、査読されていない総説、さまざまな免疫療法レジメンを比較した研究が含まれ、一つの性別のみのサブグループ解析を報告した研究は除外した。これらについて全生存期間で女性と男性の間の異質性検定を行い、さらに生存期間については免疫療法の優位性に性差がないという帰無仮説を評価した。このメタアナリシスには、9322人の男性(67.9%)および4399人の女性(32.1%)が参加した23件のランダム化試験を使用した。ほとんどの患者の年齢が70歳台であった。免疫療法の全生存期間の利益は、男性(ハザード比0.75[0.69-0.81]; P<0.001)および女性(ハザード比0.77[0.67-0.88]; P=0.002)の両方で見出された。免疫療法における研究レベルの差の変量効果メタアナリシスは、性別間で統計的に有意な差がなかった(I2=38%; P=0.60)。罹患部位、治療ライン、免疫療法の種類、研究方法、および女性の割合によるサブグループ分析でもこれらの知見は維持された。結論として進行癌治療における免疫療法において、 全生存期間をアウトカムとした 場合に性別との間に統計学的に有意な関連は見られなかった。

感想
以前取り上げた「免疫チェックポイント阻害薬の効果は男女差がある」[Conforti F Lancet Oncol2018 PMID:29778737]を強く意識した報告です。このLancet Oncologyの論文は2017年11月までのデータで、その後約1年の報告を追加したら男女間の効果の優位差がなくなったという趣旨です。前報告でも男女とも免疫療法のそのものの有効性は示されており、性別間でその効果に差があるのかが主題です。要は有意性が消えた理由は、この一年間に女性側に大きく利益のある研究成果が発表されたためです。一つがOAK試験[Rittmeyer A Lancet2017 PMID:27979383]です。この試験は既治療例のアテゾリズマブとドセタキセルの比較試験で、女性の全生存期間は16.2ヶ月対11.2ヶ月(ハザード比0.64[0.49-0.85])、男性は12.6ヶ月対9.2ヶ月(ハザード比0.79[0.64-0.97])で女性の方が利益が大きくなっていました。また抗がん剤+ペムブロリズマブと抗がん剤を比較したKEYNOTE189[Gandhi L NEJM2018 PMID:29658856]でも、女性のハザード比0.29[0.19-0.44]に対し男性はハザード比0.70[0.50-0.99] と女性の方の利益が大きくなっていました。事の真偽はともかく、私が実際に知る限りは免疫療法は明らかに男性の方が多く、性差があるように思えてなりません。また「有意差がない=差がない」の証明ではありません。まだまだ性差ありなしについて確定的なことが言えない段階であるというとらえ方が重要かと思います。