初回アミバンタマブ+ラゼルチニブ、生存延長だがすこし引っかかる点も

Overall Survival with Amivantamab-Lazertinib in EGFR-Mutated Advanced NSCLC.

Yang JC et al.
N Engl J Med. 2025 Sep 7. Epub ahead of print.
PMID:40923797.

Abs of abs,
本第3相試験では、未治療のEGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺癌患者を対象に、アミバンタマブ・ラゼルチニブがオシメルチニブと比較してPFSを有意に改善した。プロトコル規定上の全生存期間解析の最終報告を行う。未治療のEGFR遺伝子変異(エクソン19欠失、L858R)を有する局所進行または転移性非小細胞肺癌患者を、アミバンタマブ-ラゼルチニブ群、オシメルチニブ群、ラゼルチニブ単独群に2:2:1の比率で無作為に割り付けた。主要副次評価項目として、アミバンタマブ-ラゼルチニブ群とオシメルチニブ群を比較した全生存期間(無作為化から全死因死亡までの期間を解析)が設定されている。追加評価項目には安全性がある。アミバンタマブ-ラゼルチニブ群とオシメルチニブ群にはそれぞれ429名が割り付けられた。中央値37.8ヶ月の追跡期間において、アミバンタマブ・ラゼルチニブはオシメルチニブと比較して有意に長い全生存期間を示した(死亡ハザード比0.75、[0.61-0.92]、P=0.005)。3年生存率はそれぞれ60%と51%であった。データカットオフ時点で、アミバンタマブ・ラゼルチニブ群の38%、オシメルチニブ群の28%が割り付けられた治療を継続していた。グレード3以上の有害事象は、特に皮膚関連事象、静脈血栓塞栓症、および注入関連事象において、オシメルチニブ群(52%)よりもアミバンタマブ・ラゼルチニブ群(80%)でより多く認められた。これらの所見は、これまでの安全性プロファイルと一致していた。追加の追跡調査では新たな安全性情報はなかった。
アミバンタマブ-ラゼルチニブは、未治療のEGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺癌において、オシメルチニブと比較して有意に長い全生存期間をもたらした。しかいグレード3以上の有害事象リスクの増加もあった。

感想
MARIPOSA試験の全生存報告です。アミラゼ群は生存期間中央値にまだ達してはいませんが、オシメルチニブ群が36.7ヵ月で、ハザード比0.75で有意に延長しました。FLAURAの最終結果[Ramalingam SS NEJM 2020 PMID:31751012]が38.6ヵ月であることから対照群が極端に悪いということもないです。サブグループ解析を見ると19Delはよいですが、L858Rは1を跨いでいます。毒性も既知ですが、血栓症が40%と多く、なんらかのG3以上の有害事象が80%に起こっており実地では苦労しそうです。さてOSの数字上の利益については、中央値に達しなかったためか、モデルを使った方法で言及されています。
ここで使われたパラメトリックモデルとは、生存データを数学的確率分布(指数分布、ワイブル分布など)に当てはめて分析する統計手法です。これにより、実際の観察データに基づいて、将来の生存期間中央値を推定することができます。今回はTableS2に試験群、対照群をモデルに当てはめて、その差分とともに表示されています。生存についてワイブル分布がよく使われ、それによると13.6ヵ月の延長が予測されます(本文では指数分布について言及されています)。
さて少し引っかかる点を述べます。
先に報告されたとおりアミバンタマブ+ラゼルチニブはオシメルチニブよりもPFSが優れていました(中央値23.7か月対16.6か月、ハザード比0.70、P<0.001)[Cho BC NEJM2024 PMID:38924756]。この試験のPFS曲線を見た時、開きが少なく「これでOSに差がつくかな?」と疑問に思いました。しかし今回はほぼ同じハザード比0.75でOS延長が見られました。ここが少し引っかかります。どういうことかというと、初回治療のPFSとOSでは普通ハザード比はPFSの方が優れています(数字上かなり小さい)。実際FLAURA試験ではPFSが0.46、OSが0.80でありこれが普通です。しかし今回のMARIPOSAでは、初回PFSとOSのハザード比がほとんど同じです。これは「後治療のPFSハザード比が両群で初回治療のまま維持されている」ことが考えられます。偶然にもこのデータが確認できます。FigureS7で、初回の後治療までを含めたPFSが示されており、そのハザード比は0.74とほとんど落ちていませんでした。期間は42.9ヵ月対32.8ヵ月で、決して初回の後治療期間が短いことはないと言えます。もっと言えば今回の生存ハザード比は0.75で、初回+一つの後治療までのPFSハザード比が0.74なので、2次治療までのPFS(いわゆるPFS2)がOSにそのまま翻訳されたという稀有な臨床試験ということになります。このハザード比が維持されることも解釈がいくつかあると思います。PFSイベント直後に死亡イベントが起こっているわけではなさそうなので、後治療の効果が同じハザード比を持っていることが考えられます。特殊な後治療をしているわけではないので、アミラゼの効果が免疫チェック阻害薬のように持ち越されているとも考えられます。この通常PFSハザードがOSに反映されない理由は、この論文[Broglio KR JNCI 2009 PMID:19903805]を元にかつて肺癌でも盛んに議論されました。通常後治療の期間が12ヶ月を超えると、PFSでつけた差がOSに反映にくいと言われます。今回はオシメルチニブ群でも20ヶ月の後治療があるわけで、それでいてPFSハザード比がOSハザード比に反映されているのは不思議に感じます。何か未知の理由があるのか、うまい説明があれば知りたいです。実地の治療選択としては、FLAURA2のOSとも比較しての判断となりますが、EGFR遺伝子変異陽性の初回治療は熱い議論が起こるかも知れません。