患者と医師の治療選択時の関心事の違い

Patient and oncologist preferences for ALK+ advanced non-small cell lung cancer tyrosine kinase inhibitor treatments: a discrete choice experiment in the United States.

Le H et al.
Lung Cancer. 2026 Jan;211:108850.
PMID:41317687.

Abs of abs,
次世代ALK-TKIは、ALK陽性進行非小細胞肺癌の初回標準治療である。治療薬は全身、中枢神経系に対する有効性、有害事象プロファイルがそれぞれ異なる。この状況における患者と腫瘍医の治療嗜好性の違いを理解する必要がある。ALK陽性非小細胞肺癌でTKI治療中の患者および腫瘍医を、患者データベース、患者支援団体、オンラインで募集し、無増悪生存期間、脳転移発生と進行、代謝異常、体重増加、CNS関連AE、疲労/無力感、筋骨疼痛を含む離散選択実験を行った。回答は混合ロジットモデルを用いて解析した。相対的属性重要度(RAI)、最小許容利益、最大許容リスクを算出した。151人のうち、23.2%が脳転移を有し、50.3%が初回治療中であった。治療利益は有害事象を上回り、患者全体のRAIの73.6%、腫瘍医全体のRAIの67.0%を占めていた。脳転移進行の阻止が患者にとって最も重要(27.2%)であったのに対し腫瘍医にとって最も重要(31.1%)なのはPFSであった。腫瘍医は中枢神経系有害事象の回避を患者の2倍、代謝関連事象の回避を4倍重要視した。患者は疲労/無力感の回避を腫瘍医より重要視した。本研究は米国におけるALK陽性非小細胞肺癌の初回治療に関する嗜好を定量化した初の研究である。患者と腫瘍医の優先順位が異なることが示されており、効果と有害事象の間の患者医師間の異なるトレードオフを理解することで共同意思決定と個別治療を促進できるであろう。

感想
いわゆるshared decision-makingの話です。肺癌でこの関心が高まってきたのも予後延長と、治療の身体的負担が軽くなってきたからです。特にALK陽性肺癌はTKIの劇的な奏効と、それ以外と比べた場合長期予後が見込めます。そのため全生存期間だけを見て治療を決めていくのは疑問のあるところです。当然患者側が何を期待しているのか、避けられない有害事象で種類が選べるのであればどれを選ぶのかはきちんとつかんでおく必要があります。このように何を重視し、何を捨てるかのトレードオフを数値化するための分析手法が離散選択実験です。マーケティングや医療経済学などの分野で、該当製品、サービスの価値を測る際に使われます。Rではパッケージsupport.CEsで実装でき、幸いなことに作者が日本人のため日本語での詳細な解説も読めます。RAI:Relative Attribute Importance(相対的属性重要度)とは、離散選択実験の結果から、最終的な意思決定をする際、どの要素(属性)に最も左右されたかの割合です。つまりこの論文で一番見るべき点はFig2で、患者は脳転移の出現や進行を一番気にして治療選択をしているということになります。「脳に飛んで来たら怖い」とはたまに聞く訴えですが、正にこのことと思います。一方、医師側は3年PFSを最も重要視しており、数値データ中心にものを見る傾向があることが伺えます。有害事象では体重増加が筋骨痛より重視されていますが、質問の仕方にもよるかも知れません。本研究から学ぶべきことは、たとえ小さくとも脳転移の扱いを軽々しくすべきではなく、大きな患者の関心事であることを理解し、同時に私たち医療者側が気にするほどPFSは伝わっていないのだということだと思います。