Outpatient Talc Administration by Indwelling Pleural Catheter for Malignant Effusion.
Bhatnagar R et al.
N Engl J Med. 2018 Apr 5;378(14):1313-1322.
PMID: 29617585
Abs of abs.
悪性胸水は、欧米で年間75万人以上に発生する。入院患者に対してはタルク注入による胸膜癒着が一般的な治療法である。一方外来患者においては、排液用の留置型胸膜カテーテルの選択肢がある。今回は留置型胸膜カテーテルを介してのタルク投与が、カテーテル単独より胸膜癒着を起こすのに有効であるかどうかを調べた。4年間にイギリスの18施設で悪性胸水を有する患者を登録した。留置型胸膜カテーテルを通常通り挿入した後、患者は定期的に外来で排液を受けた。10日間で肺実質が膨らまない(非拡張性の肺で、肺と胸膜が重ならない、つまり臓側胸膜の線維化や気管支の閉塞がある)場合以外は、タルク4gまたはプラセボのいずれかをカテーテルから外来で注入した。タルクまたはプラセボは一重盲検であり、フォローアップは70日間行った。主要評価項目は無作為化後35日での胸膜癒着の成功である。無作為化された154人には、584人の患者にアプローチした後到達した。35日後にタルク群の69例中30例(43%)の癒着が成功し、プラセボ群では70例中16例(23%)の癒着が成功した(ハザード比2.20[1.23-3.92]; P=0.008)。胸水量と複雑さ、入院日数、死亡率、有害事象の数において有意な群間差は見られなかった。タルク群においても留置カテーテルの閉塞が特に多いことはなかった。本試験により、悪性胸水で留置型胸膜カテーテルを入れ肺実質の再膨張が得られた患者において、外来でのタルク注入を行うことにより35日目の胸膜癒着成功を有意に向上させることができ合併症も増やさなかった。
感想
留置型胸膜カテーテル(Indwelling Pleural Catheter)は日本ではあまり馴染みのないものです。実際の手技はYou Tubeで”Indwelling Pleural Catheter”で検索すれば見ることができます。注入法としては、生理食塩水50㏄に溶解したタルク4gを注入後2時間は経過観察、その後12-36時間後に次のドレナージを行うと書かれています。今回の試験は923人をまず評価し、最終的には250人を登録しています。しかしその後32人が肺が十分膨らまず、23人が状態悪化、13人がカテーテルのトラブルで脱落しています。かなり選ばれた症例であることが前提になります。普段の臨床でも悪性胸水の経過は様々で、すぐフィブリン網が出てくるものから、何回も強力な癒着剤(OK432など)を注入しても癒着しないものもあります。今回の先行研究[Ahmed L CHEST2014 PMID:25451360]で、後ろ向き研究において留置型胸膜カテーテルからタルクを注入したところ、癒着率が92%であったとのことです。別の話ですが、最近日本でのタルクによる胸膜癒着の第Ⅱ相試験でのデータも論文化されています[Saka H JJCO2018 PMID:29528450]。それによれば30日後の癒着成功率は83.3%と高くなっています。
Fig2に癒着成功をイベントとしたカプランマイヤー曲線が示されています。タルク群は明らかにイベントが起きるのが早くかつ、最終的な癒着成功率も高くなっています。ハザード比2.24ですので、留置型カテーテルでタルク注入すると、自然癒着に比べて2倍の癒着効果と評価することができます。有害事象としては感染、痛みとドレナージカテーテルの閉塞が気になるところです。感染はプラセボ群5/76、タルク群5/76、痛みは8/76、6/78、閉塞は3/76、5/78に起こりましたがどれも大差は見られませんでした。私の知る限り現在日本では使用できない手技ですが、海外では古くから行われているようであり、癒着を含め今後広く普及する可能性があります。