Loss of smell in lung cancer patients undergoing chemotherapy: Prevalence and relationship with food habit changes.
Drareni K, et al.
Lung Cancer. 2023 Mar;177:29-36.
PMID:36701841.
Abs of abs.
殺細胞性抗がん剤を受けているがん患者は、嗅覚や味覚変化などの有害事象のため食生活やQOLに大きな影響を与える。特に嗅覚変化は頻度が高く、患者が良く訴えるが、過小評価されることが多い。本研究では、化学療法を受けている肺癌患者における嗅覚喪失と食生活との関連について検討した。シスプラチンを投与されている肺癌患者44名と、年齢と性別をマッチさせた対照群44人を対象に、嗅覚テストと味覚テストを用いて、嗅覚と味覚についての検査した。自己申告式の質問紙を使い食事と食生活を申告した。患者は、i)治療開始前、ii)6週間後の2サイクルの化学療法後の2回検査された。対照群は、同じプロトコルで、6週間おきに2回検査した。特筆すべきは肺癌患者群のほぼ半数で、シスプラチン投与前から嗅覚と味覚の能力が低下していたことである。知覚面において、患者は対照群に比べ、典型的な食品臭を食べにくいと評価した。さらに、がん患者群では、感覚低下に対する代償として、調味料をより多く使用することが報告された。これらを総合すると、嗅覚喪失は肺癌患者に広くみられ、調味料を含む食事習慣の変化と関連していることが示された。今後この患者集団における嗅覚喪失の代償メカニズムや、食の楽しみへの影響について理解を深める必要がある。
感想
抗がん剤による嗅覚味覚低下はよく知られています。殺細胞性抗がん剤が多いですが、オシメルチニブなどの経口分子標的治療薬でもしばしば経験します。著者らは最初シスプラチンによる変化を研究したかったようですが、肺癌患者が最初から嗅覚味覚障害が存在していることにフォーカスしています。少し話がそれますが、私は最初からBSCの利点として味覚が落ちないことを説明してきました。しかしすでに味覚障害に苦しんでいたのかもしれません。この嗅覚味覚低下の機序としては、炎症に起因する間隔受容体の機能変化、肺癌による呼吸能力の変化による臭気物質への暴露の変化、気道平滑筋にある味覚嗅覚受容体の影響、知覚認知機能の障害が推測されています。
日常臨床では、全味覚が無くなって「何を食べても砂をかむようだ」と表現されたり、「何を食べても辛く感じる」など一部残存した味覚が強調されてしまうパターンがあるように思います。これがQOLに与える影響は非常に大きいです。しかし味覚に関する研究は評価手順が難しくなかなか進みません。