Tumor Treating Fields therapy with standard systemic therapy versus standard systemic therapy alone in metastatic non-small-cell lung cancer following progression on or after platinum-based therapy (LUNAR): a randomised, open-label, pivotal phase 3 study.
Leal T et al.
Lancet Oncol. 2023 Sep;24(9):1002-1017.
PMID:37657460.
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Tumor Treating Fields(TTField)は、がん細胞の生存の重要な過程を破壊し、免疫原性細胞死と抗腫瘍免疫反応の亢進をもたらす電場である。非小細胞肺癌の前臨床モデルにおいて、TTFieldsは化学療法と免疫チェックポイント阻害剤の効果を増強した。今回は転移性非小細胞肺癌を対象としたTTFields療法の主要結果を報告する。この無作為非盲検化第3相試験は、19ヵ国130施設で行われ、対象はプラチナ製剤による治療中または治療後に進行した22歳以上の転移性非小細胞肺癌で、扁平上皮または非扁平上皮の組織型を有し、PS2以下の患者であった。プラチナ製剤による前治療歴が必要だが、レジメン数や種類の制限はなかった。参加者は、TTFields療法と標準化学療法(主治医選択の免疫チェックポイント阻害剤[ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ]またはドセタキセル)または標準化学療法単独に無作為に割り付けられた。無作為化は組織型、治療法、地域によって層別化された。化学療法は地域の診療ガイドラインに従って投与された。TTFields療法(150kHz)は、少なくとも1日平均18時間の装置使用が推奨され、胸部に連続的に行われた。主要エンドポイントはITT集団における生存期間であった。安全性集団は、いずれかの試験治療を受けたすべての患者を含み、実際に受けた治療に従って解析された。2017年2月13日~2021年11月19日の間に276例の患者が登録され、TTFields療法と標準療法を併用する群(n=137)と標準療法単独群(n=139)に無作為に割り付けられた。年齢中央値は64歳(四分位範囲IQR 59-70)、男性178人(64%)、女性98人(36%)、非扁平上皮非小細胞肺がん156人(57%)、免疫チェックポイント阻害薬の前治療歴ありが87人(32%)であった。追跡期間中央値は、TTFields療法と標準療法を併用した患者で10.6ヵ月(IQR 6.1-33.7)、標準療法を受けた患者で9.5ヵ月(0.1-32.1)であった。生存期間は、TTFields群が標準療法単独群より有意に長かった(中央値13.2ヵ月[10.3-15.5] vs 9.9ヵ月[8.1-11.5];ハザード比0.74[0.56-0.98;p=0.035)。安全性集団(n=267)において、何らかの原因による重篤な有害事象が報告されたのは、TTFields療法と標準療法を併用した患者133例中70例(53%)、標準療法のみを受けた患者134例中51例(38%)であった。頻度の高いグレード3~4の有害事象は、白血球減少(267例中37例[14%])、肺炎(28例[10%])、貧血(21例[8%])であった。TTFields療法に関連した有害事象は133例中95例(71%)に報告され、その大部分(81例[85%])はグレード1~2の皮膚・皮下組織障害であった。標準療法に関連した死亡は3例(感染症2例、肺出血1例)であり、TTFields療法に関連した死亡例はなかった。標準療法にTTFields療法を追加した場合、プラチナ製剤を含む治療で進行した転移性非小細胞肺癌において、全身毒性を増悪させることなく、生存期間を有意に改善した。これらのデータは、TTFields療法が転移性非小細胞肺癌に有効であることを示唆しており、治療選択肢として考慮にいれることが必要である。
感想
今年のASCOで少し話題になっていたものが論文化されました。腫瘍治療電場療法は細胞分裂時に電場を掛けてチュブリンが揃うのを阻害し、結果として細胞分裂を阻害し死滅させます。実際の機器メーカーの解説ページが理解しやすかったです。医師側、患者側とも好き嫌いが分かれる治療法と思いますが、有害事象がほとんどないため保険適応となればかなり広がる可能性があります。
この腫瘍治療電場療法は脳腫瘍(膠芽腫)で最初に予後改善効果が認められ、現在保険適応となっています。「膠芽腫、オプチューン」で検索すると紹介ページが多くヒットしイメージがつかめます。今回の結果も、特に大きな有害事象の追加なく生命予後を改善しておりコストの問題さえクリアできれば汎用性もあるように思えます。Fig2に生存曲線が出ていますが、ハザードが最初から開いており、わずかですが多くの人が恩恵を受けられる形をしています。免疫療法との併用の方がより開いており、併用薬との相性もありそうな印象です。免疫チェックポイント阻害薬との相乗効果も実験的に確かめられています。私が思うこの治療法の一番の利点は「やってる感」の非常に強い治療であることです。これによるプラセボ効果もあるかも知れません。(電磁場をかけず機器をつけるだけの)プラセボ対照試験はあればはっきりしますが、私が調べた限りはありませんでした。しかし副作用を増やすことなく予後が伸びることは良しとせねばなりません。
従来にない治療法ということで、いくつか気になる点もあります。まずPFSハザード比が0.85に対してOSハザード比が0.63が奇妙です。治療法に効果があれば通常はPFSよりOSの方がハザード比が1に近くなることが多いです。過去によく議論されましたが、このような場合背景の偏りや、後治療の影響が疑われます。一方膠芽腫の試験[Stupp R JAMA2015 PMID:26670971]ではPFSハザード比が0.62に対してOSハザード比が0.64でした。PFSとOSのハザードがよく似るのは後治療の乏しい段階での試験としてはあり得るのかと思います。この観点でみるとドセタキセル投与のサブセットではフィールド療法併用でもPFSが重なっています(補遺FigS5)。つまり効果の大部分は免疫療法併用による効果と言えます。そもそもドセタキセルか免疫療法かは主治医が選択するようで、前治療に免疫療法が入っている場合はほとんどドセタキセルが選ばれています。一方免疫療法を使用していない場合はほとんどが免疫療法が選択されています。PD-L1発現も半分がunknownであり、たまたまセカンドラインとしての免疫療法の効果が偏った可能性もあります。また装置の装着も胸部領域だけ見てもすべてではなく、脳転移や肝転移などに細かく当てられているわけではない点も気になります。いわば広範囲のマイルドな局所療法なわけで、これまでの常識では延命効果があるとはなかなか信じられません。
しかし私の学生時代に最も悪い腫瘍として教わった膠芽腫で効果が見られたこと、毒性の少ないことから期待度は高いです。臨床試験をやるのであれば是非お声がけいただきたいです。