Lung cancer in never smokers: Distinct population-based patterns by age, sex, and race/ethnicity.
Pinheiro PS et al.
Lung Cancer. 2022 Oct 30;174:50-56.
PMID:36334356.
Abs of abs.
非喫煙者の肺癌(LCNS)の疫学は、肺癌の15%を占めているにもかかわらず、よくわかっていない。過去の研究は、疫学/保険制度を元にしたコホートであり、実勢を反映しているとはいえない。今回は真の人口に基づいたデータで、性、年齢、人種・民族別にLCNSの割合(および傾向)を分析こととした。フロリダのがん登録から喫煙状況に関する2014年から2018年の個人データを、喫煙率に関するNHISデータで調整し解析した。他癌と比較した発生率および死亡率順を検討し、傾向はJoinpoint回帰分析を行った。LCNSの割合は、白人男性の9%から中国人女性の83%の範囲にあった。全体として、LCNSは女性よりも男性に13%(発生リスク比1.13[1.08-1.17])多かったが、年齢群によって差があり、若年では女性の割合が多かった。10万人当たりの年齢調整発生率は、アジア太平洋諸国(API)男女(それぞれ15.3、13.5)および黒人(14.6、12.9)で最も高く、白人(13.2、11.8)では中程度、ヒスパニック(12.1、10.6)で最も低かった。アジア太平洋諸国の女性では、LCNSは乳癌に次ぐ癌死因の第2位であった。LCNSの傾向は時期での変動はなかった。本検討から、LCNSは男性で11番目、女性で8番目の癌であった。LCNSの人種/民族による差は小さく、白人でも15%範囲内である。驚くべきことにアジア太平洋諸国の男女はLCNSの発生率およびそれに比例した死亡率が最も高い。米国で喫煙率が低下するにしたがって、LCNS症例は必然的に増加し平均寿命に対する影響が懸念される。
感想
EGFR遺伝子変異関係の論文で引用できそうな疫学データです。今回用いられたJoinpoint回帰[Kim HJ Stat Med2000 PMID:10649300]は、期間の区切って発生率の変わる傾向を検討する手法です。Rで実装されているものは見つけられませんでしたが、NIHのサイトで解析ソフトを配布しています。非喫煙者についてかつて読んだ昔の総説[Subramanian J JCO PMID:17290066]では環境被爆、受動喫煙、遺伝要因、ウイルス感染、調理での粉塵(cocking fume)吸入など挙げられていましたが、喫煙率の減少で以前より言われなくなったように思います。Table1を眺めると日本人男性のデータが抜け落ちているのが気になりますが。LCNSが高い同じアジアの中でも差があることが見て取れます。黒人の罹患率が高いことについて、PM2.5粒子や職業上のリスク、受動喫煙の可能性を指摘していますが、説得力に欠けるように思います。特にハイチ生まれの黒人のリスクが高いのはsocioecomonic status、貧困だけで説明がつくのでしょうか。年齢別の発生状況を見ていくと、若年では女性の割合が多く、白血病やリンパ腫に比べても多いのでもう少し注目されてもいいと思います。EGFR/ALK変異が多く治療に反応しやすいのはその理由かもしれません。全体としては非喫煙者の肺癌が男性に多くなっていること、アジア人女性では乳癌に次ぐ死亡原因であること、人種差はあまり大きくなくなってきていることが、覚えておいて損のない新しい情報です。