BMIが高い方が術後の予後が良好

Impact of the preoperative body mass index on the postoperative outcomes in patients with completely resected non-small cell lung cancer: A retrospective analysis of 16,503 cases in a Japanese Lung Cancer Registry Study.

Fukumoto K, et al.
Lung Cancer. 2020. Nov;149:120-129.
PMID:33010640

Abs of abs.
今回は完全切除した非小細胞肺癌(NSCLC)患者における術前BMIが術後アウトカムに及ぼす影響を評価した。日本での合同肺癌登録で2010年のデータベースから、R0切除のNSCLC患者のデータを抽出し、術後合併症率、死亡率、予後などの手術成績を評価した。肺癌登録18978例のうち、16509例(男性9996例、女性6513例)を抽出した。年齢中央値は69歳、組織型は腺癌(n=12,029)、扁平上皮癌(n=3286)、大細胞癌(n=488)その他の構成であった。患者をBMIにより、正常(BMI18.5~25未満)、低体重(BMI<18.5)、過体重(BMI≧25)の3群に分けた。術後の合併症と死亡率に関連する因子の多変量ロジスティック分析では、3群間に有意差は認められなかった。正常群と比較して、低体重群では全生存期間(OS)が有意に短縮した(p<0.001)が、一方で過体重群では改善する傾向にあった(p=0.075)。全生存期間に関連する因子を多変量解析したところ、年齢、性別、病期、術前BMI(低体重群対正常群:ハザード比1.417[1.278-1.572]、p<0.001、過体重群対正常群:ハザード比0.883[0.806-0.967]、 p=0.007])が独立した予後因子となった。無再発生存期間の多変量解析でも、術前BMIは独立した有意な予後因子であることが示された。本研究では術前のBMIは、完全切除したNSCLC患者の独立した予後因子であり、術前BMIが低いと生存率が有意に低下していた。

感想
1万以上のデータから大まかな傾向を見た報告です。BMIは免疫療法、TKI治療に関し予後因子であることは複数の報告がありますが、明確な理由があるわけではありません。BMIが高い方が予後が良い現象をイントロではBMIとDMの全死亡の関係がJ型であることを報告した論文[Tobias DK NEJM2014 PMID:24428469]を引用し、“obesity paradox”と呼ばれていることを述べています。ただし逆にBMI上昇と発癌リスクについては、既報[Kyrgiou M BMJ2017 PMID:28246088]に、男性では食道腺癌、直腸大腸癌、胆道癌、膵臓癌、女性では子宮内膜癌、腎癌、多発性骨髄腫との関連が見られています。肺癌については考察でも述べられているように肥満により発生率が低いことが報告されています[Zheng W NEJM2011 PMID:21345101]。肺癌疫学における現象論としてはおそらくBMIが高い方が予後が良いのでしょうが、理由はよくわかりません。今回も栄養状態に触れるのみにとどまっています。BMIが原因なのか結果なのかもはっきりしません。話が変わりますが、肥満とCOVID-19の重症度の関連も報告されています。栄養状態がよければ病原体への抵抗力も上がりそうなものですが逆になっています。これまで単純な指標であるBMIについて、疾患ごとに持つ意味が異なっており、ポジティブなのかネガティブなのか意識して診療に当たる必要があります。