EGFR遺伝子変異陽性、抗がん剤先行の方が若干良い傾向

Real world treatment and outcomes in EGFR mutation-positive non-small cell lung cancer: Long-term follow-up of a large patient cohort.

Okamoto I et al.
Lung Cancer. 2018 Mar;117:14-19.
PMID: 29496250

Abs of abs
EGFR-TKIはEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌に効果があることが臨床試験で示されている。しかし、実地臨床でのデータはあまり集まっていない。本研究では、実地環境下で治療されたEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌患者の治療およびそのアウトカムを研究した。日本の17病院から後ろ向きに臨床背景、治療レジメ、生存データを得た。全生存期間(OS)に関して初回および2次治療、そして治療の組み合わせについて、サブグループ解析を行った。また初回治療開始から5年生存した患者についても実施した。全データには、1656人の患者(平均67歳、PS0、1が80.6%)が入っていた。フォローアップ中央値は、 29.5ヶ月で、全生存期間中央値は29.7カ月であった。3年および5年生存率はそれぞれ41.2%と21.5%であった。OSの有意な予測良好因子は、年齢が若い、喫煙歴がない、腺癌の組織学的診断、臨床病期が低い、PS良好およびmajorEGFR変異であった。ベースラインが何項目か不均衡ではあるものの、初回治療として化学療法を受けた患者は、初回でEGFR-TKIを受けた患者よりも5年生存率が高かった。EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌の大規模分析は、臨床実地における治療結果に関する有用な情報を提供する。しかし最新の状況を見るためには免疫療法を含む、現在利用可能な最新薬剤で治療した患者を入れてアップデートする必要がある。

感想

今年もASCOが近づいています。最近の肺癌領域の進歩は目覚ましく、ガイドラインが追い付いていません。オシメルチニブの初回治療への適応拡大が予想され、EGFR遺伝子陽性肺がんも今年から来年にかけ大きく変化すると思われます。今年のASCOでも抗がん剤+TKIの重要情報が報告される予定であり、結果によっては再度この分野が混乱する可能性があります。今回の論文は第一世代TKI単剤で使用し、かつ第三世代TKIと免疫療法のなかった時代の総括といえるデータで現在の到達点を確認する意味で大切かと思います。同じようなデータは先に報告[Inoue A JpnJClinOncol2016 PMID:26977054]されていますが、著者と期間を見る限り重複がありそうですので比較は無意味と考えます。実地データでは女性65%、男性35%、非喫煙者が6割、19delとL858Rで9割、その他(minor mutation)が1割、初回TKIとしてゲフィチニブが81.3%、エルロチニブが14.8%、アファチニブが1%というのも面白いところです。他の試験で最終的にPFSでゲフィチニブがやや不利であることが示されても、使い勝手と先行していたということで、ゲフィチニブが全体でこれだけのシェアを得ています。現在の免疫チェックポイント阻害薬の競争の行方にも参考になりそうです。ただしこの研究の資金源には注意して解釈すべきです。さて今回の最も重要な点は、初回→2次治療がTKI→抗がん剤の5年生存率が30.2%、抗がん剤→TKIが33.4%、抗がん剤→抗がん剤36.0%と抗がん剤を先行した方が少しよいかもしれないという点です。この抗がん剤を先行した群にはminor mutationやL858Rの割合が若干高くなっているので単純比較は危険かもしれません。またTKI→抗がん剤でのプラチナ2剤がされているのは74%であり、抗がん剤を入れていても比較的弱いレジメンしか入れられなかった影響が考えられます。以前から私はEGFR遺伝子変異陽性の治療の一番の重要ポイントはTKIの選択ではなく、「プラチナ2剤を確実に入れること」と認識しています。おそらくオシメルチニブが初回治療に入ってきても同じでしょう。となれば初回抗がん剤治療から入るやり方もまだ残されるべきではないかと思います。