EGFR遺伝子変異とTP53変異、関係あるのはL858Rだけ?

Distinct Role of TP53 Co-mutations in Different EGFR Subtypes Mediating the Response to EGFR Tyrosine Kinase Inhibitors in Non-Small Cell Lung Cancer.

Wei L et al.
Clin Lung Cancer.2025 Sep;26(6):478-491
PMID:40382269.

Abs of abs,
TP53の共変異は、EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌の予後不良と密接に関連している。今回はEGFR変異サブタイプとTP53共変異による全生存およびEGFR-TKIへの反応性の違いについて240例を後ろ向きに分析した。様々なEGFR変異サブタイプの中で、L858R/TP53MT患者は、TP53共変異のない患者と比較して、無増悪生存期間が有意に悪かった(7.9ヶ月対19.8ヶ月、ハザード比1.53[1.03-2.28]、 P=0.032)。一方、19del(P=0.730)および他のEGFR遺伝子変異(P=0.495)のサブグループでは同様の傾向は認められなかった。特に、第2世代TKI治療を受けたL858R/TP53MT患者は、TP53共変異を有さない患者と比較してPFSが劣っていた。多変量解析により、TP53共変異がPFSの唯一の独立した危険因子であることが確認された。さらに、TP53共変異はL858R保有患者における耐性獲得を媒介し、さらにがん抑制遺伝子(RB1、NF1、ARID1A、BRCA1)との併存変異は、PFSがきわめて不良なサブグループを形成していた。TP53共変異は予後不良と関連し、L858Rを有する場合に他のゲノム変異と協調して耐性を促進する可能性がある。EGFR-TKI単剤療法を超えた段階的治療介入は、L858R/TP53変異陽性患者の生存期間を延長し得る。

感想
まずTP53変異は変異箇所が多く、それぞれ予後に与える影響が違うと言われています。したがってTP53変異部位によって分類しようとする試みは古くからなされています。その一つとして蛋白の機能喪失が起こる破壊的変異と、野生型p53の機能特性の一部を保持する非破壊変異に分類する方向性があります。一見破壊的変異によりTP53の機能(がん抑制)が失われるほうが予後不良に思われますが、非破壊変異の方が予後が悪く、それは一部機能維持が新たな腫瘍増殖方向への機能を獲得しているためと説明されます[Molina-Vila MA ClinCansRes2014 PMID:24696321]。
結果を見ていきます。全体としてEGFR遺伝子変異陽性肺癌で見た場合、TP53の変異の有無はあまり影響を与えていないように見えます。しかしmajor変異で分けた場合、19Delはあまり差がないのに対してL858RはTP53変異の有無によって有意に生存アウトカムが異なりました。さらに細かくTP53破壊的変異と非破壊変異に分けてみると、L858RにおけるTP53非破壊変異の共存はPFSを短縮しています。しかし19Delはそこまででもなく、また破壊的変異の共存では19Delは逆に上を行っています。L858Rでは破壊的、非破壊的変異で一貫して下回るか交差しています。さらに深堀して、TKIの世代ごとでみていくと、L858Rでは、世代が上がるごとに野生型TP53の成績が上がり、一方でTP53変異陽性はあまり成績が改善せず差が開いて行くように見えます。また腫瘍抑制遺伝子の併存もL858Rの方がわずかに多く(7.5% vs 4.9%)、併存した群はPFSが極端に落ちていました。このようなことからL858R/19DelではTP53変異のかかわり方が違ってくるというのが結論となります。現在ではTP53変異を簡単に測る方法がなく、難しいところです。臨床背景では脳転移や女性の割合がわずかに多かったですが、これだけでは判断しづらいです。今回のTP53の共存率は50%ですが、基本的にL858RではTKI単剤でなく、何か加えた治療を考えた方がよい根拠となりそうです。