EGFR遺伝子変異陽性に対するICI+化学療法は効果なしなのか?

Nivolumab Plus Chemotherapy in Epidermal Growth Factor Receptor-Mutated Metastatic Non-Small-Cell Lung Cancer After Disease Progression on Epidermal Growth Factor Receptor Tyrosine Kinase Inhibitors: Final Results of CheckMate 722.

Mok T et al.
J Clin Oncol. 2024 Jan22. Epub ahead of print.
PMID: 38252907.

Abs of abs.
CheckMate 722試験は、EGFR-TKIによる病勢進行後のEGFR遺伝子変異陽性患者を対象に、ニボルマブ+化学療法と化学療法を比較した第Ⅲ相試験である。第1,2世代EGFR-TKI(T790M変異なし)またはオシメルチニブ療法(T790M変異あり/なし)後に病勢進行した患者を、ニボルマブ(360mg、3週間に1回)+プラチナ2剤併用化学療法(3週間に1回)またはプラチナ2剤併用化学療法単独(3週間に1回)の4サイクルに1:1で無作為に割り付けた。主要評価項目は無増悪生存期間であった。副次項目として、9ヵ月および12ヵ月のPFS率、全生存期間、奏効率、奏効期間であった。294例が無作為に割り付けられた。最終解析(追跡期間中央値38.1ヵ月)において、PFSはニボルマブ+化学療法での有意な改善はなく(5.6対5.4ヵ月;、ハザード比0.75 0.56-1.00]; P=0.0528)、9ヵ月および12ヵ月のPFS率はそれぞれ、25.9%対19.8%、21.2%対15.9%であった。事後解析としてPFSサブグループ解析では、感受性のあるEGFR遺伝子変異(ハザード比0.72[0.54-0.97])、EGFR-TKIの前治療が1(0.72[0.54-0.97])、または両方(0.64[0.47-0.88])の患者において、ニボルマブ+化学療法が有利な傾向が示された。OS中央値はニボルマブ+化学療法群で19.4ヵ月、化学療法群で15.9ヵ月、奏効率は31.3%、26.7%、奏効期間中央値は6.7ヵ月、5.6ヵ月であった。グレード3/4の有害事象は、ニボルマブ+化学療法群および化学療法単独群のそれぞれ44.7%および29.4%に見られた。EGFR-TKIによる前治療歴のあるEGFR遺伝子変異陽性進行肺癌において、ニボルマブ+化学療法は化学療法に対してPFSの有意な改善は見られなかった。新たな安全性情報はなかった。

感想
IMpower150のサブ解析により、EGFR遺伝子変異陽性例に対する免疫療法の有用性が示唆されました。以後ORIENT-31試験[Wu LS LancetOncol2022 PMID:35908558]でもPFSの優越性は示されていますが、依然として議論のある領域です。ORIENT-31試験のサンプルサイズは両群合わせて300例程度であり、また血管新生阻害薬を併用しています。今回のCheckMate-722試験は規模は同じですが、血管新生阻害薬を含まないため、より適格患者の多いレジメンになります。
結論からするとP>0.05で有意でなかったから駄目ということですが、本当にそうでしょうか?今回のプライマリーエンドポイントはPFSです。中央値付近はほぼ重なり5.6対5.4ヵ月と差がない印象です。しかしFig2のPFSの曲線はきちんと開いています。ハザード比0.75[0.56-1.00]でP=0.0528でした。はじめの統計設定で見込んでいたハザード比は0.735で両群で500例を入れ、検出力90%と少ない差を検出するために万全な構えであったようです。しかしCovid19により、サンプルサイズを減らし、最終的にはハザード比0.692、検出力83%に設定し弱体化しています。そのままやっていればPFSは達成できたのではないかと思います。もちろん統計設定は厳密であり、評価も「たられば」ではいけませんが、まだまだP値絶対主義が力をもっているように感じます。ハザード比は信頼区間とともに語らねばならず、上限が1.00で結果を全否定し葬り去るのもどうかと思います。副次項目であるOSも曲線は上を行っています(ハザード比0.82[0.61-1.10])。よくよく見ていくと捨てるには惜しいレジメンと考えます。おそらくEGFR遺伝子変異陽性例ではPD-L1発現、腫瘍微小環境、併存する遺伝子変異によってICIの利益が異なります。集団としての利益はわずかでも、大きく利益が受けられるサブグループが存在、それがどこなのかを追及することが大切であると思います。