EGFR-TKIへの耐性機序としてのBRAF rearrangements

Acquired BRAF Rearrangements Induce Secondary Resistance to EGFR therapy in EGFR-Mutated Lung Cancers.

Vojnic M et al.
J Thorac Oncol. 2019 May;14(5):802-815.
PMID:30831205

Abs of abs.
EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)が使われた際の耐性化機序として複数の遺伝子変化が知られているが、未知の部分も多く残されている。獲得耐性の新たなメカニズムを同定するために、EGFR遺伝子変異陽性肺癌の連続374例(TKI使用後の174検体を含む)について標的ラージパネルシークエンシンスを行った。そのうち38例はTKI投与前検体が存在した。獲得耐性と想定された変異は、薬剤感受性をもったEGFR遺伝子変異のセルライン(H1975、HCC827、PC9)に、CRISPR/Cas9をゲノム編集することによって導入した。EGFRエクソン19欠失(ex19del)およびPJA2/BRAF融合遺伝子を有するセルラインであるMSK-LX138clは、EGFR-TKI耐性患者検体から作製した。EGFR-TKIへの獲得耐性を持った検体から、BRAF融合患者4人(2.3%)(AGK/BRAF患者3人およびPJA2/BRAF患者1人)を同定した。これらはエルロチニブ治療後が2検体と、エルロチニブおよびオシメルチニブ治療後が2検体であった。TKI治療前検体がこの内2人に存在し、両方ともBRAF融合陰性であった。H1975(L858R+T790M)、PC9(ex19del)、HCC827(ex19del)細胞においてAGK/BRAF融合が誘導されると、BRAF、MEK1/2、ERK1/2、STAT3のリン酸化の増加が見られ、これはオシメルチニブによる増殖阻害への耐性となっていた。トラメチニブによるMEK阻害はオシメルチニブと相乗するように成長を阻止していた。また単剤としての汎RAF阻害剤は、EGFR遺伝子変異およびBRAF融合を有する全ての細胞株の増殖を阻止した。BRAF融合は、EGFRーTKI療法の耐性メカニズムとして約2%の患者に見られる。EGFRとMEK阻害(オシメルチニブとトラメチニブ)またはBRAF阻害(汎RAF阻害剤)は、検討すべき可能性のある治療戦略と考えられる。

感想
BRAF-V600E変異ではなく、BRAF融合遺伝子による耐性化の報告です。近年悪性黒色腫においてBRAF-V600E阻害薬に対する耐性機序として、このBRAF融合が報告されています。したがってこの変異に対しては通常のBRAF-V600E変異に対する治療は無効です。AGK/BRAF融合は、これまで肺、甲状腺、乳腺での報告があるそうですが、PJA2/BRAF融合は初めてのようです。機序を簡略化するとEGFR→RAS→BRAF(2量体形成)→MEK→ERKのシグナル伝達系があり、BRAF融合によりN末端の抑制ドメインがなくなるため、活性化しつづけてしまうということになります。さて、このBRAF融合がオシメルチニブを入れる入れないに関わらず、TKIの耐性機序となっていることで、新たな治療ターゲットと想定されます。今回の研究は約2%の耐性機序となっていること、汎RAF阻害薬(LY3009120)が、細胞実験上(都合の良くEGFR遺伝子変異+BRAF融合のセルラインがゲノム編集技術で作成できるのも驚きです)増殖抑制を示したとのことで今後に期待されます。検索して限り、この薬の第Ⅰ相試験は行われていますが、以後の試験についての情報はありませんでした。BRAF融合の2例については臨床経過が示されています。これによるとBRAF融合が判明した後の治療(ニボルマブ、ペメトレキセド+ベバシズマブ、ドセタキセル)は全く効果が見られません。この辺りはBRAF変異に対して抗がん剤が効きにくいことと共通性があるかもしれません。このようにEGFR遺伝子変異の耐性化は、1%あるいはそれ以下の頻度のさまざまなマイナーな変異によって構成されているようで、耐性部位の再生検をそのたびごとに繰り返し遺伝子パネル検査にかけるような日も近いかもしれません。しかし結局マイナーな変異を追い切れず、殺細胞性抗がん剤の工夫に戻る可能性もあるかと思っています。