EGFR-TKI治療前後の免疫微小環境の変化

EGFR-mutant NSCLC may remodel TME from non-inflamed to inflamed through acquiring resistance to EGFR-TKI treatment.

Chen Q et al.
Lung Cancer. 2024 Jun;192:107815.
PMID: 38754276.

Abs of abs.
EGFR-TKIは、EGFR変異を有する進行非小細胞肺癌に対する初回標準療法である。 しかし耐性はほぼ必発である。 これまでの臨床研究では、EGFR-TKI療法が無効後に免疫療法が有効であった症例があることが示されている。 今回はEGFR遺伝子変異陽性肺癌においてEGFR-TKI治療により誘導される免疫微小環境のリモデリングを探索し、関与する免疫細胞の種類と潜在的な分子シグネチャーを調査することである。少なくとも1種類のTKI治療に抵抗性患者37人のコホートをレトロスペクティブに構築した。治療前とTKI抵抗性の腫瘍FFPEサンプルのペアが収集された。 転写プロファイリングとバイオインフォマティクス解析を用いて、TKI治療前後の免疫関連ホールマークの変化を評価した。 TKI治療後の腫瘍では、インターフェロン-γ、移植片拒絶反応、炎症反応のような炎症性シグナル伝達の濃縮を示した。 特に細胞傷害性因子グランザイムAとPD-L1がEGFR-TKI耐性検体でより多く発現していた。 TKI治療後サンプルの約33.3%(11/33)が「ホット」腫瘍に分類され、特にL858R変異では46.7%(7/15)であった。 エフェクター細胞は、TKI抵抗性に続く「ホット」腫瘍の特徴で有意に過剰発現していた。 さらに、4つのエフェクター遺伝子(CD8A、CDB8、GZMB、GZMK)がTKI抵抗性後の “ホット “腫瘍で高発現を示し、その4遺伝子エフェクター細胞シグネチャーが過去臨床試験においても生存利益と良好な相関を有することが見出された。TKI治療はEGFR遺伝子変異陽性肺癌において免疫活性化を促し、TKI抵抗性後の免疫細胞浸潤の変化につながる可能性がある。 これは、TKI抵抗性後のエフェクター細胞の増加による免疫反応の可能性がある。

感想
EGFR遺伝子変異陽性例に対してのICIの意義は明確になっていません。以前は女性、非喫煙者やPD-L1陰性例では全く効かないと思っていました。しかし個人的にも効かないと思っていた症例が、単剤で劇的に奏効したりする経験を持つと、臨床背景からは全く読めないと感じています。今回はEGFR遺伝子変異陽性例でTKIを行った前後の検体を検討し、どのような変化が生じICI効果と関係があるかどうかを検討しています。まず免疫状態によりホット、コールド腫瘍を分類、TKI治療後に移行しうることを示します。免疫療法的にはホットの方がよいですが、TKI治療後はホットに移行する例が多く見られています。ホットな腫瘍ではエフェクター細胞とT細胞が多く抗原提示蛋白も多く見られています。興味深いのはL858Rの方が、コールドからホットに移行する例が多かったという点です。これらは微妙なICI効果の差と関連しているように見えます。このホットかコールドかを分けるために、よく出ている4つのエフェクター細胞関連遺伝子 (CD8A、CDB8、GZMB、GZMK) を平均発現レベルに基づいてエフェクター細胞 (EC) スコアを作っています(図4)。CD8AとCD8B遺伝子はCD8タンパク質をコードし、GZMB遺伝子とGZMK遺伝子はグランザイムBとKをコードしています。スコア付けの詳細は示されていませんが、スコアが高い方(つまりこれらの変化が多く出ているほど)ICI効果が見込めるという結論であり、治療選択に役立つのではないかとの主張です。理屈では良く納得できるもののなぜこの変化になるのか、TKI治療によって左右されるのか、喫煙など背景で修飾されるのかなど疑問点は多く残っています。