EGFRm+の脳病変フォローアップはどうするべきか

Effects of different brain surveillance strategies on outcomes for patients with EGFR-mutant metastatic lung adenocarcinoma under targeted therapy.

Shen CI et al.
Lung Cancer. 2019 Dec;138:52-57.
PMID: 31634655

Abs of abs.
EGFR遺伝子変異陽性肺癌において脳転移がよく見られる。進行肺癌の治療中における脳病変の監視については様々であり、この差による転帰への影響は明らかではない。今回は初回TKI治療を行ったEGFR遺伝子変異陽性肺腺癌に対し、患者背景による脳病変監視の差とアウトカムについて検討した。Ⅳ期と診断された肺腺癌を対象とした後ろ向き観察研究である。患者のうち3-6ヶ月に一度MRIによりフォローされたものを定期フォローアップ(RFU)、残りを自由フォローアップ(LFU)とし臨床転帰を収集し解析した。310人の患者が集められ、治療前から脳転移が存在したのは43.5%であった 。全生存期間と初めのTKIの治療中止までの時間は、2群間で有意差を認めなかった。しかし脳内病変に関する無増悪生存期間はRFUで有意に短縮していた(P=0.009)。死亡リスクは両群で同等であり、脳内病変の進行と死因については両群で差がなかった。今回の検討によりEGFR遺伝子変異陽性肺腺癌に対し、初回治療としてTKIを行ったものについて、治療前脳転移の有無に関係なく定期フォローアップをしても有意な影響を認めなかった。

感想
症状がなければ、そもそも脳病変の評価をしない国もまだあるようです。このような状況で治療中のフォローアップとなるとエビデンスは無いに等しいです。しかしEGFR遺伝子変異陽性を初めとするドライバー変異例で脳転移など遠隔転移が多いこともまた事実です。最適な頭蓋内病変のフォローアップ方法は、日常臨床で重要な課題にもかかわらずこれまで光が当たることがなかった問題です。通常臨床試験においては、病変があれば8-12週間隔の定期画像フォローアップが入ります。しかし新規病変をモニターする事に対しては、画像のフォロー間隔は規定されていないことが多いです。しかし脳転移が出やすいとわかっている病態で、しかも脳転移が治療前にない場合どのような間隔が最適なのでしょうか? 非常に興味深い問題です。また画像だけではなく、そもそもTKI治療の最適外来間隔は何週なのでしょうか。エビデンスは全くなく習慣的に2週間ごと、一か月ごとに診察していることがほとんどでしょう。外来はさておき、画像フォローの問題は2つの方向性があると思います。一つは膨大な臨床データが集め、背景因子などによるスコア化で脳転移、原発巣の増悪が出やすい時期を予想してスクリーニング計画を立てる方法、もう一つは血中のcDNAでモニタリングしていく方向です。治療効果のエビデンスとともに医療経済・資源をいかに効率化するかのエビデンスも今後必要となってくるはずです。
さて今回はランダム化試験ではありません。LFU群がどの程度自由なのかというと、脳転移が発見されるまでのMRIの撮影回数中央値は、RFU群で6回、LFT群で2回でした。主治医の方針のみで脳病変のフォロー方法が分かれているわけではないので、元の背景が違っています。LFU群の年齢中央値67歳、RFU群のそれが62歳で有意差があります(p<0.001)。またRFU群の患者の半分以上(59.9%)に初期脳転移があり、LFU群は30.6%に初期脳転移があります(p<0.001)。つまり元々RFU群には脳転移症例が多くありフォローが必要と主治医が判断している症例ということになります。また今回は脳転移が切除された例、または初期症状として重大な神経学的症状があった患者が除外されています。
死因を比較すると、LFU群でも、頭蓋内病変関連の死亡は多くありません(RFU群:頭蓋内病変関連死32.3%、頭蓋外病変関連死41.9%; LFU群:頭蓋内病変関連死19.6%、頭蓋外病変関連死47.1%)。おそらく元の背景が違うので何とも結論できないと思います。全生存期間は、差がなかったとの結論ですが、むしろ密にフォローアップすることによって、無策であれば予後不良であった群を通常までに引きあげているとも考えることができます。結局、脳病変が心配な理由がある人は定期的にフォローする今まで通りのやり方でよいということになります。

今年はこれでお終いです。早いもので2013年1月から始めたこのブログも丸6年が過ぎようとしています。あまり派手ではありませんが、少なくとも私の備忘録としては十分役立っています。もう少し見栄え良くしたいのですが、なかなかそちらの方向の勉強をする時間が取れません。それではよいお年をお迎えください。