Prevalence and Therapeutic Targeting of High-Level ERBB2 Amplification in NSCLC.
Odintsov I et al.
J Thorac Oncol. 2023 Dec 26.
PMID:38154514.
Abs of abs.
肺癌におけるERBB2増幅の特徴はよくわかっていない。HER2(ERBB2によってコードされる)は、過剰発現時にリガンドに依存せず二量体化しシグナル伝達が可能となる膜貫通型チロシンキナーゼである。HER2過剰発現のよくある原因はERBB2増幅である。今回はERBB2増幅非小細胞肺癌の臨床遺伝学的特徴を示し、HER2抗体薬物複合体(ADC)治療戦略を検討した。5769例の非小細胞肺癌(5075例)から得られた次世代DNAシーケクエンスデータ(OncoPanel)を用いて、高レベルのERBB2増幅(≧6コピー)を有する症例を抽出した。汎ERBB阻害剤アファチニブまたはHER2 ADC(トラスツズマブ・デラクテカンおよびトラスツズマブ・エムタンシン)の有効性について、前臨床モデルとERBB2増幅を有する患者で評価された。高レベルのERBB2増幅は肺腺癌の0.9%に同定され、特にHER2の過剰発現に多く見られた。ERBB2増幅は、2つの臨床病理学的特徴および遺伝子分類で検出されていた:喫煙歴のある患者に発生した腫瘍では唯一の分裂促進因子として見られ、喫煙歴が浅いか無い患者において他の分裂促進因子と併発するものとして見られていた。さらに前臨床モデルにおいて、トラスツズマブ・デルクステカンが有効な治療法であることを示し、標的治療後に獲得耐性としてのERBB2増幅に対する抗HER2 ADC活性を示した2症例を報告する。高レベルのERBB2増幅は非小細胞肺癌におけるHER2過剰発現を確実に予測し、HER2 ADCはこの集団において有効な治療法である。
感想
乳癌、胃癌でのHER2高発現は、肺癌におけるERBB2増幅や遺伝子変異と必ずしも相関しておらず議論が複雑になっています。EGFR遺伝子変異とEGFR過剰発現が異なるように、HER2も過剰発現、遺伝子変異、増幅と分けて考えていく必要があります。ERBB2増幅もドライバーの一つではありまずが、それをターゲットとした治療は確立していません。今回はERBB2増幅をきちんと測定し、汎ERBB阻害作用を持つアファチニブと、ADC薬の可能性を検討した報告となりますが、臨床例は何が効いたのかはよくわからず、あくまでも可能性に留まります。
まず単純にERBB2増幅のみをグループA、ERBB2増幅に加え細かいERBB2内に変異を伴うものをグループB1、EGFRなど他のドライバーと併存しているものをグループB2に分類しています(Fig1)。臨床背景からみると喫煙歴がかなり違い、mutation burdenもグループAの方が高そうです。またグループB1のすべてがERBB2チロシンキナーゼドメインに活性化変異を持っており、HER2染色での発現が陰性である点も興味深いです。細胞実験は既存のCalu-3およびH2170という細胞株に対して行われます。これは高レベルERBB2増幅(≥6コピー)の基準を満たしますが、他の変異を持たないもの、つまりグループAに相当する細胞実験と言えます。結論としてはFig4にあるように、T-DXdで腫瘍縮小効果が得られるが、アファチニブ、トラスツズマブでは不十分ということになります。グループA患者からのDFCI-429 PDX(腫瘍移植)の動物実験でも、T-DXdの効果が確認されます。また同様にグループ2Bに相当するデータもあります。エルロチニブでPDになった患者からL858RとERBB2増幅を有するPDX (MSK-LX-29)を使用した動物実験です(Fig5D)。ここではアファチニブ、オシメルチニブ、トラスツズマブの縮小効果は認めないものの、T-DXdには縮小効果が認められています。ここまで見るとERBB2増幅(おそらくHER2高発現を示すもの)については、T-DXdがおそらく有効であろうと信じたくなります。今後臨床試験で確認しに行くところですが、同時にERBB2増幅の定義(今回は≧6コピー)や検査方法を確立する必要があります。