ICI関連脳炎、ステロイドで予後良好

Encephalitis related to immunotherapy for lung cancer: Analysis of a multicenter cohort.

Sanchis-Borja M et al
Lung Cancer. 2020 May;143:36-39.
PMID: 32200139

Abs of abs.
ICI使用に際し様々な免疫関連有害事象の発生に注意する必要がある。その中でも中枢/末梢神経障害は稀であるが重篤な場合がある。今回は非小細胞肺癌においてPD-1/PD-L1使用下において免疫関連脳炎となった症例に関して、臨床的、生物学的、画像的な背景について後ろ向き解析を行った。6施設から9例がピックアップされ、全例男性、喫煙者、年齢中央値は67歳(48-77)、78%は腺癌、4/5は初回あるいは2次治療であった。2例はICI開始時に非活動性の脳転移があった。神経学的症状が出る前に、中央値にして5回のICI投与歴があり、症状としては意識障害(78%)、発熱(45%)、小脳失調(33%)の順であった。髄液所見は、白血球数22/㎜^3(1-210)、特にリンパ球増多は8例に見られ、全例に蛋白上昇が見られた。細菌、ウイルス検査はすべて陰性であった。MRI検査は5例で正常であり、4例で脳実質の炎症に相当するFLAIR高信号であった。3例は集中治療を要し、用量は異なるものの全例でステロイド治療がなされていた。8例は発症後8.5日(6-18)でステロイド治療により速やかに症状が回復し後遺症を残さなかった。残りの1例はステロイド治療までに長期間を要し、その後死亡した。ICI再投与はどの患者にもされていなかった。免疫関連脳炎は稀であるが重大な合併症である。早急なステロイド治療で経過そのものは良好である。

感想
ICI関連脳炎の後ろ向き研究です。ベースになったのはICI治療を受けた2400人で、単純な発症率は0.38%でした。投与薬剤はペムブロリズマブが4人、ニボルマブが4人、アテゾリズマブが1人で、1次治療は5人、2次治療が4人でした。脳炎の診断は症状、MRI以外に傍腫瘍神経症候群関連の血清/髄液抗体(Hu、アンフィフィジン、Yo、Trなど)も調べた上で行われており精度の高いものと思われます。自己免疫性脳炎を参考にすれば、MRIのFLAIR画像で両側側頭葉内側に限局される異常(辺縁系の関与が疑われる)が典型例のようですが、そのような例はあまり多くないようです。典型画像および診断については自己免疫性脳炎のレビュー[Graus F LancetNeurol2016 PMID:26906964]が勉強になります。あくまでも脳炎であり、髄膜炎ではないので、頭痛や項部硬直などの髄膜刺激症状に乏しい点も重要なポイントでしょう。
またこの免疫関連脳炎の現象は基礎になっている癌種によって違うようで、重症筋無力症と脳炎は悪性黒色腫より明らかに肺癌が多いようです。同じ抗がん剤でも癌種によって副作用のプロファイルが違うことを経験します。例えばイリノテカンによる重篤な下痢は明らかに大腸癌より肺癌に多いように感じます。免疫システムは複雑であり、基礎となっている癌により影響を受けている系統や程度の差が大きいことは十分に考えられます。予後良好なのは救いであり、著者らは、ICI投与中で、臨床的に脳炎が疑われ、MRIで辺縁系がやられており、髄液でリンパ球増多、蛋白上昇が見られ感染性でなさそうなら早急にステロイド治療を考えるべきであるとしています。