Impact of Checkpoint Inhibitor Pneumonitis on Survival in NSCLC Patients Receiving Immune Checkpoint Immunotherapy.
Suresh K et al.
J Thorac Oncol. 2019 Mar;14(3):494-502.
PMID: 30503891
Abs of abs.
進行非小細胞肺癌における免疫チェックポイント阻害薬使用の機会が増えている。それに従って免疫関連有害事象への認識が高まっている。最近我々は非小細胞肺癌におけるチェックポイント阻害薬による肺炎(CIP)の発生割合が増加していることを報告した。他臓器の免疫関連有害事象の増加は腫瘍への反応を高める、または変わらないとされてきた。従って非小細胞肺癌においてのCIPが生存へ与える影響を明らかにする必要がある。今回は205人の非小細胞肺癌で免疫チェックポイント阻害薬を使用した患者のベースラインとフォローアップデータを使用し、multi-stateモデルを使用しCIPの死亡に対する影響について検討した。まずCIPへの進展および回復の時間依存性変化を認めた、同時に免疫チェックポイント阻害薬を開始して一年以内のCIPの進展および回復のリスクが高まることが観察された。さらに調整前と調整後のモデルでも、CIPへの進展と死亡リスクが高まることが見られた。多変量モデルでは、腺癌患者においてのみCIPと死亡との関連が高まっていることが発見された。まとめると、これらの知見から非小細胞肺癌においては、免疫治療を受けた場合のCIP発症が生存を悪化させていることが示唆される。
感想
著者らは先行研究[Suresh K JTO2018 PMID:30267842]でCIPの発症率が臨床試験での3-5%よりはるかに高く19%(発症までの中央値82日)であったことを報告しています。その中でCIPの「発症リスク」は腺癌で低かったとしていました。同じデータを使った今回の結果はCIPと「死亡リスク」との関連では逆に腺癌が関連しているという結果で、真実とすれば臨床に役立つ知見と思います。今回はstate1(CIPなし)とstate2(CIP)の状態の行き来があるものとし、最終的にstate3(死亡)という状態になることを(隠れ)マルコフモデルを使って解析しています。CIPなしからCIPありの遷移時間は、ICI開始から肺臓炎発症までの時間とし、回復は肺臓炎の発症から酸素化や症状の改善までの時間とし、死亡への遷移時間は、最後に直前の状態を確認してからの時間としています。これらの遷移強度(transition intensity)と遷移確率(transition probability)を多因子で調整し求めています。実装はRパッケージ”msm”でされます。今回の解析もこのパッケージをつかって行われています。結果を見ていきます。時間経過とともにstate1→state2に遷移する確率、つまり肺臓炎を発症する確率がtable3に示されています。1年くらいまでは発症確率が高まり、その後低下することが見て取れます。またstate2→state1つまり肺臓炎から回復する確率も1年以降はあまり変わらないことが見て取れます。また多因子(性別、組織型、治療)で調整した各stateへの遷移ハザード比がTable5に示されています。この図は何のハザードなのか若干説明不足ですがTable3と同様に読むと、肺臓炎の発症(
state1→state2 )については組織型、抗がん剤コンボ、ニボルマブとそれ以外での比較において差が認められませんでした。Fig4にCIP有無→死亡の確率の時間経過が示されています。これによると腺癌でのCIPありからの死亡確率と、なしからの死亡確率の信頼区間が重ならず、肺臓炎を起こした場合死亡に与える影響が、その他の組織型よりも大きいことを示しています。この理由については腫瘍の微小環境とPD-L1発現により正常間質に誘導されるリンパ球に違いがあるのではないかということが述べられていますが、はっきりしません。
今回は症例数も少なく、またモデルを仮定しているので、危うい面は多くあります。かつて既治療例でのICI投与で腺癌において生存曲線が交差し手放しで喜べない結果[Borghaei H NEJM2015 PMID:26412456]が出ていたのも見逃せません。かなり前の結果ではありますが、ひょっとすると腺癌では免疫関連有害事象が致命的になるケースがわずかに多いのかもしれません。腺癌での肺臓炎発症が重症化しやすいかどうかの直接のデータはありませんが、少し気にしておく必要があるのかもしれません。